当初は単にめずらしい、人を驚かすための珍重品であったものが、商業利用されるようになったのは1720年ごろからといわれている。その時すでに石綿紙や石綿布が製造されていたという。

日本においては1891年に石綿保温材が発売されたことが産業としてのはじまりといわれる。

商業利用されたアスベストは、おもに角閃石(かくせんせき)系のクロシドライト(青石綿)やアモサイト(茶石綿)と、蛇紋石(じゃもんせき)系のクリソタイル(白石綿)の3種である。船舶の耐火材や保温材、絶縁材を皮切りに、さまざまな製品に利用が広がっていく。

とくに建築材料としての使用が始まると、輸入量が急激に増えていった。大量に産出され、きわめて安価なアスベストは、その有用性から「奇跡の鉱物」と呼ばれたほどだ。ところが、曝露から数十年後に健康被害を引き起こすことが明らかになると「静かな時限爆弾」「悪魔の鉱物」と恐れられることになった。

●増加する「過去の曝露被害」
さて、改めて(1)の健康被害である。

アスベストが引き起こす健康被害には、悪性中皮腫、石綿(アスベスト)肺がん、石綿(アスベスト)肺、良性石綿胸水(胸膜炎)、びまん性胸膜肥厚がある。曝露から20~40年後になって健康被害を起こすのが特徴であり、これがじつに厄介なところである。


なんらかアスベストを扱う仕事をしたり、業務上で結果としてアスベストを吸うようなことがあった「職業性曝露」であれば、これらのアスベスト疾患を発症した場合、一定の条件を満たすことで労災補償を受けることができる。2005年6月末の「クボタショック」以前には、職業性以外のアスベスト被害者に対して補償・救済をする制度はなかった。

だが、クボタショック後、「職業性でない」アスベスト被害者が多数存在することが知られるようになり、2006年2月に石綿健康被害救済法が成立する。
この救済制度では、中皮腫とアスベスト由来の肺がんを発症した場合、職業性かそうでないかを問わず一定の条件を満たせば、医療費の自己負担分や療養手当(1カ月約10万円)、葬祭料(約20万円)などが支払われる(遺族が申請した場合、特別遺族弔慰金(280万円)と特別葬祭料(約20万円)を給付)。2010年7月には、石綿肺とびまん性胸膜肥厚が、「著しい呼吸機能障害伴う」ものに限定されてはいるが、給付対象に追加された。
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