◆生活総和の実態とは?
辛:私は朝鮮学校へちょっと行っていたときがあって、そのときはみんなのことを「トンム(同務=友達の意)」っていう言い方をしていたの。北ではなんていうの?
ハナ:北も「トンム」です。普段は友達同士では普通に名前で呼び合っているのですけど、生活総和(自己批判や相互批判をする定期的な集まり)とかになると......
辛:総和!なつかしい~!
ハナ:集団生活になると、たとえば李さんだったら、「李トンムはどうです、こうです」と言っていました。普段はあんまり使わないのですけど。
辛:私なんかクラスの子に「先生、辛淑玉トンムは今日、日本語を一度使いました」って言われたことある。あれ、嫌だよね。人間悪くなるよね。(※かつての朝鮮学校は学校内で日本語の使用を禁じていた)
ハナ:生活総和では、必ず相互批判をしなくちゃいけなくて...。
辛:そうそう!私たちの時なんかね、一番初めに「百戦百勝の鋼鉄の霊将であり、国際共産主義運動と労働運動の卓越した領導者の一人である、四千万朝鮮人民の敬愛なる首領・金日成元帥様に」と前置きしてから、「私は~をしました。すみません。」と自己批判するんだよね。(笑)
ハナ:「教示(キョシ)」って言われる(金正日の)お言葉を引用して、「だけど私はそのお言葉に沿った生活ができませんでした」とか「勉強できませんでした」とか言って...。
「じゃあ、今日は◆◆トンムを批判したいと思います」。そういうことを毎週、毎週、小学校ぐらいからやるので...。一週間に一回もやるとさすがにネタがなくて、「ごめんね。ちょっと今日はあなたを批判させて。来週私を批判していいから」って(笑)。
あんまりきつく言わなくて、やわらかく、「◆◆トンムは今日、授業中に寝ていました。今度は寝ないでください」って言ったら、◆◆トンムが立ち上がって「すいませんでした」って。次の週は、その人が私を批判して、私が立ち上がって「はい、すいませんでした」(笑)。ものすごい形式的な総和になっていく...。(つづく)
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辛淑玉(シン・スゴ):東京都生まれの在日コリアン3世。人材育成コンサルタント会社代表。マイノリティやフェミニストの立場からの人権問題についての著作や発言多数。東日本大震災後、宮城県や福島県などの避難所を取材、女性や災害弱者の視点で感じた経験を、講演などを通して伝えている。
リ・ハナ:北朝鮮・新義州市生まれ。両親は日本からの「帰国事業」で北朝鮮に渡った在日朝鮮人2世。中国に脱出後、2005年日本に。働きながら、高校卒業程度認定試験(旧大検)に合格し、2009年、関西学院大学に入学、2013年春卒業。現在関西で働く。今年1月刊行の手記「日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩」は多くのメデイアに取り上げられた。
■ 日本初の脱北女子大生 3月卒業へ
■ <脱北者に聞く北朝鮮>リ・ハナさんインタビュー(全7回)
■ 【2013年1月刊・書籍】日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩 (リ・ハナ著)