◇金正恩時代になって処罰・取締り強化
当局による脱北者への処罰は、2000年代後半に入り緩くなる傾向にあった。06年に脱北したある男性は「中国に脱出した2日後に逮捕され北朝鮮に送還されたが、6か月の労働鍛錬刑を受け満期出所後、再度脱北した」と語る。処罰緩和の背景には、「生計型脱北」、すなわち貧しさのため止むに止まれず北朝鮮を離れた住民に対しては「善処」するよう、中央からの指示があったとされる。国境地域の住民の世論を意識してのことだ。
しかし、一度でも中国に出て、北朝鮮とは比較にならない豊かな暮らしを経験した者や、最終目的地が韓国である場合には、中国で捕まって送り返されても再度脱北する傾向が高かった。
06年から11年まで、毎年2500人を超える脱北者が韓国に入国している(10年を除く)。07年には教化刑(刑務所での懲役)2年を宣告されたケースも確認されているが、一般的に政治犯として管理所に送られるようなことは稀だった。
逮捕された脱北者は、重罪に問われる韓国やキリスト教会との接触を否定する上、賄賂もある程度通用していたためである。
変化があったのは、12年以降、金正恩氏が父である故金正日総書記の権力を継承してからだ。社会統制が緩むことを未然に防ぐため、中国との国境沿いの警備を強化するとともに、逮捕者への処罰を強化しているのだ。これに呼応するかのように、中国側でも全豆満江沿いへの鉄条網設置を完成させるなど対応を強化したため、12年に韓国に入国した脱北者の数は1500人台に急減している。
冒頭で紹介したように、今回の取材で新たに明らかになった「管理所送り」の対象には、中国キャリアの携帯電話による脱北斡旋の通話も含まれる。一方、罪状が軽微な場合には、以前のように「労働鍛錬隊(短期の強制労働キャンプ)」での労働刑が課せられると前出の恵山市の取材協力者は語る。だが、満期出所する際に、今後外国との「違法通話」をしないことを家族以外の人物を保証人にして誓わせる、新たな「連座制」を当局が新たに導入しているという情報もある。
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