シリアの一般家庭を取材する玉本英子。内戦下の市民の暮らしを伝えるため、シリア北東部に入った(2013年春撮影)
シリアの一般家庭を取材する玉本英子。内戦下の市民の暮らしを伝えるため、シリア北東部に入った(2013年春撮影)

 

◇反アサド勢力が宗派、民族別に割拠
シリアはどうなっているのか。アラブの春の余波を受け、シリアで反政府デモが本格化して2年が過ぎた。アサド政権軍と自由シリア軍をはじめとする反政府組織との戦いが泥沼化し、国際社会は手をこまねいている、ということなら、連日のシリア報道から多くの日本人が知るところだ。だがそれ以上の情報はなかなか伝わってこない。

そこに住む人々が何を思い、どのように暮らしているのかは知るすべもない。今年の春、玉本英子がシリアに単独潜入し取材を敢行。戦火の中で生きる人々について語ってもらった。二回にわたってお届けする。(編集・整理/大村一朗)

◆シリアで何が起きているのか
Q:今回、どのような取材を目的にシリアへ行ったのですか?

玉本:シリアでは、内乱が発生した2011年以降、多くのジャーナリストが訪れています。フリーランスの場合、自由シリア軍の同行取材がほとんどでした。

私は2004年、シリア北東部の都市カミシュリで反政府運動が高まったときにシリアを訪れ、そのとき運動の主体となっていた人たちや、運動の中で命を落とした若者たちの遺族を取材しました。今回は戦闘の最前線よりも、一般の人々がどのように暮らしているのかを取材し、伝えたいと思いました。

あと、2012年の初夏の頃でしたが、イラク北部でシリア人の難民キャンプを取材しました。その時、シリア国軍の離脱兵士たちからも話を聞きました。シリアには兵役義務があります。元兵士たちは「誰も銃で市民を撃ちたくはない。でも命令には背けなかった」と話しました。

彼らによれば、お金のある人は上官にワイロを渡して後方任務に回してもらったり、休暇をもらい、その間に国外に逃げたりすることも出来たそうです。だから前線に行く兵士は、ワイロを払えない貧しい家庭の出身者が多いと。前線にまわされた一人は、市民を撃つのが嫌で、空に向けて銃を撃っていたら、上官から「同じことをすれば、次はお前を撃つ」と言われたそうです。それを聞いて、これは政府軍と反政府軍の戦いという単純なものではないと感じました。

自由シリア軍に参加しているのはどんな人たちなのかと尋ねたら、多くが政府軍に家族を殺されて恨みを持っている人たちだと言いました。民主化運動のため、あるいは反政府、反アサドといった政治的な動機を持った人も、もちろんあるでしょうが、多くの人は恨みによって立ち上がった人たちだと。現地の人やイラクに逃げてきた人たちとやり取りする中で、私もそうした思いを強くし、取材を決めました。

陸路でシリア北東部へ入り、以前に訪ねたハサカ県のカミシュリ市で協力者の家を訪ね、取材拠点としました。その後、治安状況を見極めて、協力者を訪ねながら西へ向かおうと考えました。
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