シリアで反政府デモが本格化して2年が過ぎた。内戦による犠牲者の数はすでに10万人を超えたという。そんな中でシリアの一般市民はどのように暮らしているのか。
今年の春、玉本英子がシリアに単独潜入し、取材を敢行。戦火に生きる人々の姿を語ってもらったインタビューの第2回目。(編集・整理/大村一朗)
◆市民生活は、内戦下のイラクより厳しい
Q:玉本さんは現地で協力者の家に泊めてもらいながら取材をしてきました。市民の暮らしぶり、人々の抱える最大の問題は何でしょうか。
玉本:一番の問題は、電気、水、食糧の不足です。夏は40度以上になるから、今ごろ電気なしで一体どうやって暮らしているのか心配です。
イラクでは、電気がなくてもオイルがあるので、内戦下でも共同の発電機などを何とか稼動させていました。シリアはオイルもないし、発電機は高くて一般市民には買えません。
Q:どの程度不足しているのですか?
玉本:電気も水も一日一時間ほどしか使えません。停電中は送水ポンプも動いていないので水も来ないんです。電気が通ると、みなダッシュで水を貯めて、テレビで情報収集をします。パソコンも充電します。車のバッテリーを使って、家の電気を充電しておくことも忘れません。満充電できれば、2時間ぐらいは家の電気として使えるんです。
食糧は、以前に比べて2倍から6倍に値上がりしています。家庭の料理に欠かせないキュウリやトマトでも2、3倍に上がっています。戦闘で道が遮断されて食糧が届かないこと、輸送費が値上がりしていることが原因です。ガソリンスタンドの前には常に数百台の車が列を作って順番を待っています。肉を買えず、代わりにリンゴをたくさん買って食べる人もいるそうです。
主食のナンは6倍の値上がりです。一人が買える枚数は決まっているので、家族総出で朝4時頃から何時間も並ばなくてはならなりません。これも、戦闘で小麦粉が届かず、量が不足しているからです。
商店街には物はありますが、値段も高いので、あまり活気はありません。どんなに物価が上がっても、給料は変わりません。何から何まで本当に大変な生活になっています。
Q:そんなに物価が上昇して、人々はどうやって生活しているのでしょうか。
玉本:もう以前のやり方では生活は成り立ちません。これまで一つの仕事で十分だったのが、今では2、3の仕事を掛け持つ人が多い。仕事を終えてから綿畑に農作業に行く銀行員もいました。
海外に難民として逃れた家族から仕送りしてもらい、何とかしのいでいる家も多いです。友人のひとりは、親族でお金を出し合って、息子を国外に送っていました。それは、危険から逃がすためでもあり、仕送りさせるためでもある。お金さえあれば闇のルートでヨーロッパに行けたりできるのです。
都市部に住む人たちが、田舎へ行き、農家から鶏を買ってきて、家で育てています。家族に卵を食べさせるためです。本当に生きていけません。市民生活について言えば、私が見たイラクよりきつい。最後は、歩いて難民キャンプを目指すしかないでしょう。
Q:人々はそのような自分たちの現状をどう見ているのでしょうか。怒りの矛先はどこへ向けられているのでしょう。
玉本:確かにアサドは支持しないけど、こんな状況は望んでいなかったという人ばかりです。反体制派や外国からの義勇軍に不満や怒りを持っている人も結構います。でも、そうした怒りから何か行動を起こそうと考えたり、実際に動いたりする力はありません。家族を食べさせることで精一杯なんです。
Q:この状態を終わらせるため、欧米の介入を望む声は聞かれましたか?
玉本:それはあまりないです。彼らもイラクを見ているから、欧米の介入がこの状況を終わらせてくれると考えている人はほとんど見かけませんでした。とにかく早く戦闘が終わってほしい。家族が生き延び、食べられるようになって、普通の生活に戻れること。それが彼らの一番の願いです。アサド政権が倒れてほしい、などということは、二の次なんです。
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