◆シリア内戦の死亡率はイラクの非ではない
Q:イラクを長年に渡って取材してこられた経験から、シリア情勢をどのようにご覧になりますか?イラクとの相違点は何でしょう。
玉本:イラクでは10年間で10万人が亡くなりましたが、シリアではわずか2年間で10万人が亡くなっている。市民が死亡するのは、戦闘に巻き込まれたことによるものが最も多い。例えば、反体制派が病院に立てこもり、政府軍がそこを攻撃する。病院には病人や子どもたちがいるわけですから、かれらも巻き添えで死ぬ。すると反体制派は「政府軍が子どもを皆殺しにした」と世界に訴える。もちろん病院を攻撃する政府軍が悪い。しかし反体制派に責任はないのでしょうか。
今回訪ねたシリア北東部のハサカ県の都市ラアス・アルアインで取材したとき、町が弾痕だらけなのを見て驚きました。建物の壁という壁が一面、弾痕で埋められている。めちゃめちゃに銃を撃ちまくった痕ですね。イラクで内戦が激しかったときでも、ここまでひどくはなかった。シリアでは、統制も戦略もなくやみくもに撃っているんじゃないかと思いました。
自由シリア軍と接触してみると、部隊を率いている人物が、ハタチそこそこの若者だったりする。イラクでは、武装勢力の中で20代の若者が戦闘を仕切るなんてことは、見たことがありません。責任ある立場にあるのは、ある程度、訓練を受けた大人でしたよ。自由シリア軍を「軍の組織」と果たして呼べるのか。シリアの死者の多さはそんなことにも起因しているのではないかと思いました。
Q:シリア情勢の今後の展望をどのようにご覧になりますか?
玉本:まず戦闘を終わらせることが先決です。6月にジュネーブで和平会議が行われる予定でしたが、未だ開かれていません。EUとアメリカが自由シリア軍に武器を渡すことが一番の懸念です。武器を渡したら、自由シリア軍と繋がっているどんな過激なグループにそれが渡るかわからない。そうなると仮にアサド政権が倒れたとしても、戦闘が終わらなくなる可能性が高い。とにかく死者をこれ以上出さないことが先決です。
Q:国際社会のシリア支援は、今後どのようなものが有効でしょうか。
玉本:地元住民の生活が困窮している中、国内避難民への支援は非常に限られたものになっています。一方、国外の難民キャンプに逃げ込めば、戦闘や空爆で死ぬことはないでしょうが、女性のセキュリティーや子供の精神面のケアなど、問題は山積です。
国外の難民キャンプには、多くの国際支援団体が入っていますが、今後も避難民の数は増えていくでしょう。国際社会は避難民に対する直接的な支援とともに、難民キャンプを提供するトルコやイラクなどの近隣諸国に対するサポートも、更に強化してゆかなければならないでしょう。(おわり)