今月21日、「シリアの首都ダマスカス郊外で化学兵器が使用され、多数の市民に犠牲者が出た」と報じられ、アメリカが軍事介入を検討と伝えられるが、現地で何が起きたのか。被害の現場を目撃したシリア人と28日夜(日本時間)電話で話した。
ダマスカス郊外、サクバ市在住の大学生ムハメッド・アルアブドゥラさん(22)は、21日、就寝中の午前2時半頃、爆発音で目が覚めた。友人からの連絡を受け、隣町にある救護所へかけつけたところ、負傷者が次々と運ばれてきたという。
「爆発から2時間後には、100人以上の人びとが、救護所のフロアいっぱいに横たわり、すでに10人ほどが息絶えていた。負傷者の多くが口や鼻から泡を噴いたり、瞳孔が縮小するなどの症状があった。これまでの戦闘による犠牲者と違うのは明らかだった」とムハメッドさんは言う。
ムハメッドさんは負傷者のひとりに訊ねたところ、「ロケット攻撃の後、被害を確かめようと外に出ると、人びとがバタバタと倒れるのが見えた。これは化学兵器だ、と思ったので、皆、現場から走って逃げた」と話したという。
反政府派のシリア人権センターは、これまでに女性や子供を含む1400人以上が死亡、9000人あまりが負傷したと報告している。
この攻撃を誰がやったのか、との質問に、ムハマッドさんは、
「政府軍だと思う。理由として、被害が出た町は、すべて自由シリア軍の支配地域だった。町に多くの自由シリア軍兵士たちがいたから、彼らを狙ったのだろう」と答えた。
アメリカのオバマ政権は、化学兵器が使用されたと断定。欧米諸国もアメリカと連携する姿勢を見せ、各国の主要メディアは、アメリカがシリアへ数日中にも攻撃か、と報道している。
市民に多数の被害が出ているのは事実だが、それが実際に化学兵器によるものかどうかの確たる根拠はまだ出ていない。まずは被害者の救護と正確な実態調査が求められる。
ムハメッドさんは言う。
「この2年で10万人が命を失ったのに、これまでアメリカや国際社会は、シリア国内の人びとに何の助けもしなかった。とにかく戦闘が終結してほしい。空爆で戦闘が拡大するなら、市民が苦しむだけだ」
彼が暮らすサクバ市は、1年前から電気は完全にストップ、断水しているため井戸の水を使うしかないという。物価は内戦前の10倍近くになった。生活困窮に苦しむ市民の半分近くが、避難民となって周辺国などに逃れた。残された人びとは、双方の報復やさらなる戦闘拡大におびえながら暮らしている。
【玉本英子】