◇住民が工事説明会を「主催」
説明会の開催を拒否されても、住民は根気強く竹中土木と折衝を続け、住民が自ら説明会を開催し、そこに事業者にも参加してもらう約束を取り付けた。そうして10月末に住民主催の工事説明会というきわめてイレギュラーな形式ながら、竹中土木ら事業者に工事内容について説明させる機会を持つことができた。
この説明会には約100人が集まり、地元の関心の高さをうかがわせた。大田区には以前アスベスト製品を製造していた宮寺石綿大森工場(現・ミヤデラ断熱)の周辺における住民のアスベスト被害が問題になったという事情もあって、他人事ではないのだろう。
当日の説明資料はわずか3枚で、除去工事前の事前調査の詳しい内容などは示されなかった。住民が公表を求めたところ、区に対して情報公開請求するよういわれた。一方で事業者側は「設計図面がなく、情報がなかったため、調査が遅れた。調べながらやっていかなければならない」と釈明した。だが、これはアスベスト調査の不備を認めたことにほかならない。
参加した住民は「9階のアスベスト除去がすでに終わったことを初めて知らされました。しかも当初の調査でもれていたアスベスト建材が次々見つかっていることが知らされ、不安になりました。業者側はどこにアスベストがあるのかといった資料もろくに示さず、とうてい納得できる説明ではありませんでした」と憤慨する。
住民の要請で説明会に参加したNPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」事務局長の永倉冬史氏は「吹き付けアスベストが施工されている可能性の高いエレベーターシャフトの吹き付け材を分析していないなど、事前のアスベスト調査に致命的なミスがいくつもあり、調査の基本ができてないことが疑われる。住民が不安に思うのも当然です」と指摘する。
このとき住民側は、区の立ち会いのもとで第三者機関による現場調査と区の立ち会いのもとで改めて説明会を実施するよう要請した。
同11月5日には、アスベストセンターが調査の不備により労働安全衛生法石綿障害予防規則(石綿則)などの違反があるとして、
(1)大田区立会いの下の第三者機関による工事内部調査
(2)大田区立会いの下の工事説明会開催
(3)工事再開は、上記事前調査と説明会開催後でなければ行わない
との3点を改めて求める要望書を大田区や大田労働基準監督署に提出した。
ところが11月10日、住民は区から、8日に工事が再開されていることを知らされる。事業者の竹中土木らからは回答はなく、住民らの要望は完全に無視されたかたちだ。
事業者は説明会時に調査していなかったのはエレベーターシャフトではなく、エレベーターホールだったと区に釈明したという。いずれにせよ調査の不備が残り、石綿則違反の可能性がある状態なのだが、どういうわけか大田区は工事再開を認めていた。
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