どのようにアスベストから「自衛」が必要なのか。前回に引き続いて2010年に東京都で実施された対照的な2つの解体工事から解説する。

◆年金施設の解体で問題に
前回紹介した2010年に始まった東京都大田区・旧トーヨーボール池上の解体工事では、住民側の指摘で、アスベスト調査の不備が明らかになったが、最終的にはその検証がないまま工事が強行された。これと対照的だったのが、東京都新宿区における旧東京厚生年金会館の解体工事だった。

旧東京厚生年金会館の解体現場のようす。中央奥に隣接した建物が保育園
旧東京厚生年金会館の解体現場のようす。中央奥に隣接した建物が保育園

 

東京厚生年金会館は、社会保険庁が建設したコンサートホールやホテルなどを有するレクリエーション施設で、1961年にオープンした。建設費は厚生年金の保険料が財源となっていたうえ、赤字決算が続いて税金で運営費すら補填されていた、いわゆる公的年金流用問題が報じられて批判を浴び、閉鎖・売却されることになった保養施設の1つである。
「不安は(2010年)4月22日に解体業者が保育園を訪問したところから始まりました」と同会館に隣接する新宿区第二保育園に子どもを預ける保護者の1人が語る。

訪問時に渡されたチラシに、同26日に 住民説明会を開催することだけでなく、5月6日から解体工事を開始すると書かれていたためだ。
保護者側は2010年2月、旧東京厚生年金会館が入札にかけられ、ヨドバシカメラが落札したことを知った。同3月にはヨドバシカメラに対し、建物にアスベストが使用されていることから解体工事の問い合わせるとともに、隣接する保育園への配慮を要望する手紙を出している。ヨドバシカメラ側から返信がなかったため、4月上旬に電話で問い合わせて、保護者にも解体工事やアスベストの説明をするとの返事を得ている。

しかも保護者らは3月末の段階で、すでに新宿区保育課と話し合いを持ち、旧東京厚生年金会館の解体工事におけるアスベスト対策のため全庁組織を立ち上げ、保護者と話し合いながら対応 することを確認している。こうした迅速な動きができたのは「新宿区第二保育園・おひさまを守る会」という保護者団体が2009年1月に立ち上がっていたことが大きい。「守る会」の櫻井規子さんが2011年1月末に開かれたシンポジウムでこう説明している。

「おひさまを守る会はオリックス不動産が保育園に隣接して、子どもの健康とか日照とかを配慮しない、15階建てのマンション建築計画を立てたところから始まりました。やっと安心できるようになったと思ったら、アスベストの問題が出てきたんです」
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