2 おかずにするために野草を取りに出ているというのも情けない話だ。将校にも満足な副食がなさそうである。部下は上官の命令によっておかずを調達しなければならない日常なのだろう。
3 「自体解決」せよとは、つまり上部からは食糧が供給できないので部隊(あるいは「軍官学校」)では、責任持てないから自活せよと言われているということだ。
「自体解決」しなければならないのは食糧だけではない。キム・ドンチョル記者は次のように言っている。
「中隊は、小隊三つで成り立ち、100人規模。部隊の施設の修繕や必要な資材の購入も『自体解決』しなければならなくなっている。といっても、中隊 長がその資金を出すのか? 一般兵士に出させるのか? それは到底無理なので、中隊に支給される食糧を売って資金にすることがよくある。
開城(ケソン)で服務している兵士の話では、開城には石炭がないから冬場は暖房用の薪を伐ってこなければならないという。そのために薪を運ぶ車を調 達することになるが、ガソリン だけは部隊で負担してくれと言われるそうだ。結局金を作るために食糧をジャンマダン(市場)に売って賄うことになる。他に売れるものは部隊にないから」。
財政難のために、軍部隊では食糧のみならずあらゆるものが足りず、まるで「自分の足を食う蛸」のように、市場になけなしの食糧を売り払う悲惨な状況にあるようだ。
4 春になったら栄養失調が成員の50%にもなるという話もショッキングだ。前年秋に収穫され軍に支給される食糧が底をつく、いわゆる「春窮」現象であ る。初 秋にトウモロコシが獲れるまで、春ジャガイモで凌がねばならないが、七つしか出ないという(おそらく一食に)。七つというと少なくなさそうに聞こえるが、 「この時期軍隊に回るジャガイモは親指ほどの大きさでしかない」とキム・ドンチョル記者は指摘していた。
5 交通の便が悪いと苦労するというのは、住人の少ない山の中に駐屯していたのでは、二人がキム・ドンチョル記者に頼んだような「アルバイト」もできない し、 「泥棒」もできないからである。山がちで人口の少ない江原道に配置された部隊がもっとも食糧事情が悪いという話をしばしば耳にするが、このような理由によ ると思われる。
6 軍官の家族にはまともに配給が出ていないことをこの兵士は告白している。一般兵士は本人分の食事が部隊で供給されるが、職業軍人である軍官の家族は、配給制度で定期的に食糧を得ている。これがまともに支給されていないとは大変だが、同様の証言は多い。
「80年代までは、軍官に嫁入りすることが自慢だと考えられていた。軍官と結婚すると羨ましがられた。今は軍官に嫁ぐのは底辺の人たちだ。人気がある嫁ぎ先は、賄賂が入る保安員(警察官)、貿易会社の社員だ。軍官の暮らしはといえば、嫁が商売しなければ飢えて死ぬ状態。
配給ではまったく足りない上、 おかずも現金で買わなければならないから、軍官の妻もみな商売をしている。ただし、軍官の妻は軍部から統制を受けて市場での商売が禁じられているので、家 で豚を飼ったり、酒や豆腐を作って商売人に卸したりと、人目につかないようにしなければならない」
キム・ドンチョルはこのように説明する。今や軍官たちもぎりぎりの暮らしを強いられているわけだ。
注1 人造肉:大豆油の搾りかすを固めて乾燥させた食材。水に戻して野菜といためて食べる。食感が肉に似ている。
注2 祥原郡は10年に平壌から切り離され黄海北道に編入された。
注3 中隊と大隊でなぜ待遇に差があるのかはよくわからない。
取材ク・グァンホ / 整理・解説 石丸次郎