◇絶対独裁の世襲作業の一環 住民は「カンニング」で対応
(カン・ジウォン)
北朝鮮で8月末から全住民を対象に、指導者と朝鮮労働党への忠誠に問題があったことを自己批判し、新たに忠誠を誓わせる「反省文」の提出を強要していることが、北朝鮮内部への取材で分かった。
咸鏡北道・会寧(フェリョン)市に住む取材協力者は9月はじめ、アジアプレスとの通話で
「当局が『十大原則』の改定と関連し、義務教育学生を除いた全住民に反省文を書かせている。反省文は「崇拝事業」「組織生活」「遺訓統治」「家庭革命化」の四項目からなり、住民たちに対し、過去の生活を総括した自筆のものを提出するようにと指示があった」
と明かした。
「十大原則の改定」とは今年6-7月にあった39年ぶりの「十大原則=党の唯一思想体系確立のための十大原則」改定のこと。北朝鮮では従来、金日成-金正日による絶対独裁を綱領化し、金日成の思想を絶対化しなければならないという内容の「十大原則」が、憲法や労働党規約を超越する最高の「掟」として位置づけられてきた。
改定によってこの「十大原則」は「党の唯一的領導体系確立の十大原則」へと名前と内容を変えた。故金日成主席と故金正日総書記を同列に並べて「神は二人」とし、金正恩氏はその唯一の代理人であるとして、絶対的独裁者の地位を継承したことを正当化するものである。
「反省文」を見てみよう。
四項目のうち、「崇拝事業」とは「首領(金日成、金正日)」の肖像画や史跡地の管理などを指す。「組織生活」は、所属する党や住民組織にいかに熱心に参加したか、また「遺訓貫徹」とは、故金主席と故金総書記の生前の言葉をどの程度実践しているのかについて、それぞれ記述するもの。「家庭革命化」は家庭が「国家の細胞組織」と位置づけられる北朝鮮で、家庭内での生活が党の思想にかなっているのかを総括する。例えば労働者の場合、妻や子どもが外国のドラマを見たり、密輸をしたりしないようになど、しっかり監督する行為も求められる。
◆住民は代筆、「カンニング」で対応
北朝鮮では、重要な方針が決定されると、党組織を通じて地方の末端まで滞りなく履行することが求められる。今回の措置は、金正恩氏への権力三代世襲を正当化したい北朝鮮指導部が、重要な「十大原則」改定を機に、全国津々浦々の末端住民に「正恩氏による絶対独裁」を行き渡らせて忠誠を誓わせることが目的だろう。
しかし、住民の反応は冷淡なようである。前出の取材協力者は
「日々の生活の糧を得るのに忙しい住民たちは、他人が書いた『模範反省文』を書き写して当局に提出している。同じ内容の反省文がいくつも見つかるや、当局は再度書き直すことを指示している」
と現地の様子を伝えた。