◇要注意! 解体工事における飛散防止を考える

吸い込むと中皮腫や肺がんを引き起こす石綿=アスベスト。今後、かつてアスベストを使った建造物の解体工事がピークを迎える。恐ろしいアスベストか らどのようにすれば「自衛」ができるのか。今回から実際にアスベスト関連工事への対処法について、2010年に東京都で実施された対照的な2つの解体工事 なども参考に解説する。

駐車場の天井にあった吹き付けロックウール。この吹き付け材にはアスベストは含まれていなかった
駐車場の天井にあった吹き付けロックウール。この吹き付け材にはアスベストは含まれていなかった

2010年の東京都大田区・旧トーヨーボール池上と新宿区・旧東京厚生年金会館の解体工事をめぐるアスベスト除去について前々回からみてきた。

今回からこれらの事例もふまえながら、改築・解体工事の流れと法的な手続き、そして各工程においてどのような「自衛」の手段があるのかみていこう。今回は基本的な情報の確認についてだ。

大田区と新宿区の事例では、解体する建築物に吹き付けアスベストが多少なりとも存在するという前提で工事が計画されていた。そのため石綿則や大気汚 染防止法、建設リサイクル法に基づく届け出など、最低限の手続きはおこなっていた。そうしたアスベスト除去など、アスベストを取り扱う工事の一般的な流れ を示すと図のようになる。なお、図には入っていないが、今年6月に大気汚染防止法が改正され、今後、事前調査義務が追加されることになる(2014年6月 21日までに国が施行)。

出所:国土交通省パンフレット
出所:国土交通省パンフレット

 

図には事前準備から事後処理までの工事の流れと各工程における法的な義務が記載され、右側の【】には規制法が示されている。これをみていただければわかる と思うが、一連の作業において、石綿則による規制が16項目あるのに対し、大気汚染防止法はわずか4項目しかない。今後事前調査義務が追加されたとしても 5項目であり、規制の中心は石綿則であることがはっきりあらわれている(ただし建設リサイクル法による事前調査の義務づけなど記載もれもある)。

建築物の改築・解体による周辺住民などへのアスベストリスクは、アスベストを見落としてしまい、本来必要な対策がされず飛散するケースのほかに、何 らかの工事ミスによる飛散、工事費用削減などを目的とした意図的な手抜き工事による飛散の3つがある。なかでも「アスベストの見落としが圧倒的に多い」と いうのが、専門家や優良な除去業者の一致した見方である。

NPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」事務局長の永倉冬史氏は「住民から連絡を受けて現場に行くたびにアスベスト建材の見落としがあります。ほとんどの現場で何らかの見落としがあるといっていいくらいです」とため息をつく。それほどひどい実態なのである。
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