◇すべての責任を現場に押し付けた
R:この事故の教訓というのは、その後の原子力研究、或いは原子力運営に生かされたのでしょうか。
小出:全く生かされませんでした。臨界事故というのは容易に防ぐことが出来ます。先ほどもお話しましたが、ウランというのは地球上に分散し、低い濃度で存在しているので、そういう状態では決して臨界にはならないのです。ある一定の場所に一定量のウランを集めない限り臨界にはならない、ということが長い研究の中で分かっていますし、どういう形状で集めてはいけないのかということもはっきりと分かっていましたので、世界の国々では、ウランを一か所に一定以上集めないという管理の仕方をしてきたのです。それを臨界管理とか形状管理とか呼んできたのです。
R:JCOではなぜ臨界事故が起きたのですか。
小出:JCOの場合、ウランが一カ所、私たちが沈殿槽と呼んでいるかなり大きな槽なのですが、そこに集まってしまうというような形の工場が認可されていたのです。そんな工場を認可させてはいけないし、そんな工場にお墨付きを与えた学者、或いは政府の責任だと私は思ってきました。今でもそう思っています。
R:現場のマニュアル通りにやらなかったという批判が当時かなりありましたよね。
小出:そうです。いつもそうやって現場の運転員がバカだったとされてしまうわけですけれども、原子力を推進してきた人たちは、原子力の現場というのは「failsafe」と「foolproof」が機能している、つまり、何か故障が起きても安全だし、運転員がバカなことをしても大丈夫と言ってきたのですね。でも、実際にはそんなことはないわけだし、確かに、運転員が手順書と違うことをやったということはありますけれども、そんなことをやったところで臨界などにはならないように、元々工場を作らなければならなかった。
工場を認可した人にこそ、責任があるはずですが、一切の責任をとらないまま、運転員の人に全ての責任を押し付けて、この事故に幕を引いてしまいました。
◇大量被爆は染色体を傷つけ、破壊する
R:それも、今の福島の在り方と共通することがありますよね。
小出:そうです。本当に残念なことだと思います。
R:先ほど、小出さんが紹介された『朽ちていった命 被曝治療83日間の記録』(新潮文庫)に書かれている大内さんは、本当に凄まじい体の破壊が行われました。染色体そのもののあらゆる機能が失われていく姿が克明に記録されています。一方、福島第1原発でも同じように放射線を浴びた人たち、作業されて基準量が超えている人たちがいます。
小出:JCOの事故で被曝をした大内さん、篠原さんは膨大な被曝を受けたのです。染色体すらがバラバラになって形を留めないという程の被曝で、ごく短期間のうちに命を落としてしまうということになりました。でも今、福島の事故収束に当たっている作業員の方々が大内さんや篠原さんのように大量に被曝をしてしまっているかというと、そうではありません。
R:それでも影響はありますよね。
小出:大量に被曝を受けなかったら何でもないのかというと勿論、そうではありません。被曝をするということは染色体や遺伝子が次々に傷を受けてしまっているわけで、それによってすぐに死なないにしても傷自身はそこにありますので、やがて、ガンや白血病という形、或いは、多分、様々な他の形で表れてくるだろうと思います。
亡くなった大内さんの主治医は当時、「原子力防災の施策の中で人命軽視が甚だしい」と会見で怒りをあらわにした。この言葉は、そのまま福島第1原発事故にも当てはまる。
14年前の事故ではあるが、放射能の恐ろしさが克明に描かれた『朽ちていった命』(新潮文庫)を1人でも多く方に読んでもらいたい。
※小出さんの音声をラジオフォーラムでお聞きになれます。
「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ