ドラマに感涙こぼした民衆 若者の間に韓国スタイルが流行
厳格に統制されてきた韓国の映像情報は、どのようにして北朝鮮国内に入り込み、拡散していったのだろうか? 韓流ドラマを地下工場で大量にコピーして闇市場に流していたリャン・ジョンウ氏(仮名、平壌在住の30代男性)が、その体験を詳細に語った。
談 リャン・ジョンウ
整理 ファン・ミラン
◇ 権力と結託しての密売
このように、隠れて必死に稼いだ売上のうち、経費としてかかるのは、主に機械修理代と、この商売を統制する保安署、保衛部、検察などの権力機関の人間に渡す賄賂だった。賄賂を受け取った幹部たちは、安全に商売できるよう保護してくれる。
自分たちが監督できるアパートなどの安全な場所でダビング作業ができるようにしてくれた。また、ずっと賄賂をもらい続けるために、手入れの時間や場所などの取締り情報を提供してくれたりもした。甚だしきは、取締りで没収したVCDを、自分と関係のある商売人に売らせて稼いだりもしていたのだった。
取締りには次のような姑息な方法が使われることがあった。北朝鮮では停電がしょっちゅうだが、当然電気がないと韓国ドラマも見られない。そこで、取締り実施を決めると、わざと電気供給を良くして"見させる"のである。そして突然家に踏み込むのだ。そんなことが度々あったため、電気が珍しくよく来ると、「これは取締りするためじゃないのか」と考えるようにすらなっていった。
このようにして没収したVCDを業者に引き取らせて"再販売"させていたのだから、VCDの密売業者と取締り機関の幹部たちは、利益を得るために助け合う共存・共犯の関係にあったと言えると思う。
市場では、韓国ドラマのVCDは、当然禁制品だったので、品を店に置くことはしなかった。紙に朝鮮映画や「万寿台テレビ」が放映した映画やアニメの題名を記して置いておくと、裏で売っている作品はないかと客が聞いてくる。その客を、「ブツ」を保管している場所に連れて行き、VCD再生機で見せて画質と内容を確認してもらう。さらに別のドラマを勧めて、一枚でも多く売ろうと懸命に営業したものである。
VCDのダビング場所に関しては、どんなことがあっても発覚しないように、ダビング業者と「テゴリクン」は細心の注意を払って取り引きした。「ブ ツ」を運ぶ時は、中国から入ってきたラーメンの箱に入れて、保安員たちの目を欺こうとした。ダビング作業をする際も、とにかく気をつけて作業した。
尾行が付いたり、発覚の恐れが生じた場合は、協力者である取締り機関幹部から、作業中断や拠点移動を促す連絡が入った。やばい時には「ちょっと休んでいろ」という連絡が来ることもあった。韓国ドラマのダビングや流通を知りながら目をつぶってやったり、保護していることがばれると、自分たちも終わりであるということを、彼らもよく知っていたからに他ならない。
VCDをダビングしている同業者との間で競争が激しくなってくると、密告するなどの足の引っ張り合いも生じるようになった。あまり地位の高くない幹部と繋がっていたある業者は、ダビングが発覚しても保護を受けられず、追放されたり、懲役を喰らったりすることもあった。2004年だったと思うが、ダビング業をしていた3~4家族が見つかってしまい、平城市の広場で全員が公開裁判を受けた。裁判終了後直ちに、そのまま彼らは車で農村に連れて行かれていった。
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