◇ 中国から密輸された韓国ドラマ
そうこうするうちに、中国に隣接した平安北道の新義州(シニジュ)と両江道の恵山(ヘサン)、咸鏡北道の豆満江沿線都市を通じて密輸された韓国ドラマを、 社会科学院の若手科学者と平城のダビング業者が手に入れる(注2)。もちろん、私たちのチームもこの「新しいソフト」に目をつけた。

後に詳しく述べるが、初めてみる韓国ドラマに、私も周囲の人たちも大変なショックを覚えた。とにかく面白いのである。瞬く間に韓国ドラマは大人気の 商品となった。当時の平城のジャンマダンでは、空のVCDディスク一枚の価格は280ウォン程度で、当局に承認を受けた映画がダビングされたものは500 ウォン程。ところが、韓国ドラマは、平城では「テゴリクン」と呼ばれる仲買人に売り渡す値段がおよそ550ウォンで、ジャンマダンでの小売価格は900 ウォン程、他の都市に運ばれて小売される場合は、値段は1200ウォン程に跳ね上がった。儲かったのである。

具体例を挙げてみよう。「天国の階段」(2003年12月に韓国SBSで始まった人気ドラマ、主演クォン・サンウ、チェ・ジウ)の20話分の場合、 VCDディスク20枚の原価は5600ウォンだが、これをコンピューターでダビングし「テゴリクン」にセットで卸すと5400ウォンの粗利益になる。一度 に5枚、10枚ずつダビングできる業務用の複写機(シンガポールとマレーシア製だったと記憶している)だと、一日に500枚から600枚程度ダビングする ことができ、100ドルもの利益を出すことができた。これは当時、幹部でない一般人が商売で得られる最高の稼ぎだった。

付言すると、朝鮮にも外国からエロビデオが入ってきており、一本当たり100ドルで売れると言われていた。ただしエロビデオは、それを見たり、ダビ ングしたりしたことが発覚すると、どんなに高位の幹部が後ろ盾についていても容赦されなかった。もみ消しを頼まれた幹部たちも「韓国ドラマ程度ならまだし も、エロビデオだけはどうしようもない」と言っていた。

(つづく)

注1 VCD:ビデオCDのこと。CD-ROMに動画を記録したもので、DVDと比べると記憶容量が少なく画質も落ちるが、低価格であるため、90年代後半から中国や台湾、フィリピンなどアジア諸国で広く普及した。

注2 韓国の主要地上波放送は、衛星でも同時放送されていて、パラボラアンテナとチューナーさえあれば、中国東 北部や日本でも視聴することができる。この衛星放送を通じて、まず中国に住む朝鮮族(2000年当時で人口190万人)に、韓流ドラマが流行した。ドラマ は衛星放送でオンエアされた数日後には、違法にVCDにコピーされ、中国東北部の各市場に並んだ。価格は新しいもので10元、古いものだと1元(約15 円)。この海賊版がさらに複製され、国境の川・豆満江と鴨緑江を渡って北朝鮮に密輸された。

※ 本記事は2011年3月「北朝鮮内部からの通信リムジンガン5号」に掲載した報告に加筆修正したものです。

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