ナタンズの少年。同国中部の町ナタンズ近郊の核施設は、2002年に在米反体制イラン人グループによってその存在が明らかになった。ナタンズは歴史建築の残る静かなオアシス都市。(2006年撮影・筆者)
ナタンズの少年。同国中部の町ナタンズ近郊の核施設は、2002年に在米反体制イラン人グループによってその存在が明らかになった。ナタンズは歴史建築の残る静かなオアシス都市。(2006年撮影・筆者)

◆イラン核問題はこうしてはじまった(1)

○国連安保理付託へ賛成票を投じた日本~友人の反応は?

それは2006年の2月、数日前に大学院の前期試験が惨憺たる結果で終わり、大きなため息をつきながら、ひとりキャンパスを歩いていたときのことだった。偶然クラスメートのハサンと出くわした。彼は私を見ると、にやりと笑って口を開いた。

「サラーム、元気か? 昨日、日本は賛成票を入れてくれたなあ」

昨日2月4日のIAEA(国際原子力機関)緊急理事会において、日本を含む27ヵ国がイラン核問題の国連安保理付託に賛成票を投じたのだ。安保理付託が決まったのは知っていたが、日本が賛成票を投じたかどうかなど、考えもしなかった。

「日本人ってのは、ちょっと昔に原爆落とされたことを、もう忘れちまっているのか?でもまあ、原爆2発も打ち込まれて戦争にも負けて、国は米軍基地でいっぱいになっても、最後は経済で勝ったんだしな」

つまり、アメリカの言いなりになって繁栄するか、逆らって潰されるかのどちらかだと彼は言いたいのだ。
賛成票を投じた以上、自分は日本人の一人として、彼の嫌味の一つも聞き流してやらなければなるまいと思った。ハサンは普段、物静かでとても真面目な男なの だ。何より、私とはそれほど親しくもなかった。そんな彼が突っかかってくるのだから、安保理付託はイラン人全体にとって相当にショックな出来事だったのだ ろう。

実際、IAEAの枠内で審議されているのと、安保理という国際舞台で料理されるのとでは、深刻度に大きな違いがある。IAEAでの協定は決して義務 ではないが、安保理での決議は、違反すればたちまち制裁の対象となるからだ。イラン人の脳裏には、3年前にアメリカによるイラク開戦に道を開いた安保理決 議1441が連想させるに違いない。そのため「安保理への付託」は近年イランへの脅し文句であった。それが今、とうとう現実のものとなってしまった。もち ろん、すぐに軍事制裁が審議されるわけではない。最初は経済制裁から始められることだろう。

○イランは「国際社会」のいじめられっ子?

イラン核問題についてあれこれ調べ始めると、悲しいことに、ただでさえ誤解されているイランという国が、この問題によって余計に悪者にされており、 イランが主張する核の平和利用の権利というものが、国際社会で全く無視されていると憤りを感じるようになった。そして私は、イランの主張と核の権利を擁護 する記事をインターネット上に書くようになった。

例えば、イラン政府の主張は、集約すれば二つにまとめられる。一つは、イランが将来、石油に代わる代替エネルギーを必要とすること。これは約半世紀 後にイランの石油資源が枯渇するというデータを根拠にしており、国家財政を石油資源に頼りきっているイランは、この化石燃料を出来るだけ節約しなければな らないという主張だ。もう一つは、そもそも核エネルギーの平和利用の権利は世界の全ての国に認められた権利であり、なぜイランだけが駄目なのかというもの だ。

いずれも、もっともな主張だと思った。ところが西側のメディアが伝えるイラン核問題は、「国際社会が一致団結して、ならず者のテロ国家による核兵器入手を懸命に阻止しようとしている」という構図ばかりである。

日本のメディアも横にならえの論調だった。「ウラン濃縮活動は国際社会への挑戦である」とか、「イランが核兵器製造につながるウラン濃縮を諦めない かぎり―」などといった、アメリカ政府の意向を代弁するかのような言葉を記事に散りばめ、アメリカのイラン戦略の一翼を担おうとしている日本のメディアの なんと多いことか。

ウラン濃縮といっても色々あるのだ。発電用の低濃縮ウラン(5パーセント以下)、産業用の高濃縮ウラン(20パーセント)、そして兵器級ウラン (90パーセント以上)。イランは発電用の低濃縮ウランの製造のみに専念し、密かに高濃縮作業を行わないようIAEAの監視を受けると主張していたが、欧 米諸国は、密かに高濃縮作業を行うに違いないと決め付け、ウラン濃縮作業の停止を求めていた。
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