人権侵害の「適性評価調査」
同法案では、「特定秘密」を取り扱う者は、スパイ・テロ活動との関係(家族と同居人の氏名・生年月日・住所・国籍を含む)、犯罪・懲戒歴、経済的状況、薬物の濫用・影響、飲酒の節度、精神疾患などの個人情報を、本人の同意を得て調査のうえ適性評価をクリアした者に限るとする。
すでに類似の適性評価調査は、2009年に政府が定めた「秘密取扱者適格性確認制度」に基づき先行的に実施されている。昨年6月末の時点で、防衛・外交など重要な秘密を扱う、防衛省・自衛隊、外務省、警察庁、内閣官房など22府省の計6万4361人を、本人の同意なしに政府が身辺調査していた(「朝日新聞」2012年11月27日)。
秘密保護法案では、適性評価の対象に契約業者も含まれる。主に、自衛隊装備の開発・生産・修理、自衛隊の輸送、基地の建設などにたずさわる企業の従業員が想定される。
筆者が取材を通じて関係者から入手した、自衛隊装備の開発・生産・修理をする企業の内部文書に、「特定防衛秘密取扱関係者細部運用規定」というものがある。
「特定防衛秘密」とは米国から技術供与された兵器に関する秘密事項で、それに関わる従業員を「特定防衛秘密取扱関係者」といい、「身上調査書及び経歴明細書等により秘密保護の適格性を確認された者」の中から選定する。該当者には顔写真と指紋などを付けた「適格証明書」を交付し、全員の名簿を防衛省に提出する。
「身上調査書」には、勤務状況、技能、人格、資産、負債、交友・異性関係、飲酒状況などについて上司が所見を書く。「経歴明細書」は、本人に本籍、職歴、親族、同居人、交友関係、関係諸団体、外国人との関係、海外渡航歴、資産、負債などを書かせる。企業の側でチェックするが、防衛省が関与する場合もあるといわれる。
防衛省に問い合わせると、「企業に秘密を委託する場合、関係者の範囲や秘密取り扱いにふさわしい人物かどうかを把握する必要があるため、所要の資料を企業から提出してもらう。該当者の決定は企業が行い、防衛省は関与していない」との回答があった。
このような調査はプライバシーや思想・信条の自由を侵し、本人以外の家族や友人の個人情報まで収集されてプライバシーが侵害される。
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