誰にもわからない危険度
ここで気になるのは、係数が「0」だからと言って無視してよいのかという点だ。事故直後から放射性物質の放出量を調べている京都大学大学院総合生存学館の山敷庸亮(やましき きょうすけ)准教授は次の様に話す。(アイ・アジア編集部)
「放射性希ガスを0にしているのは、他の元素と化合しないから実質的に無視して良いとIAEAが判断したからで、根拠がないわけではない。しかし一方で、寿命が短く短期間に強い放射線を出す放射性希ガスはそのまま吸いこむと肺がんを誘発すると指摘する専門家もいる。今回の事故での放出量は原発事故史上最高であり、これを完全にゼロ評価し続けて良いのだろうか」。
山敷准教授は1979年に米国で起きたスリーマイル島原発事故のエピソードを挙げる。
「スリーマイル島原発の事故の時、原子炉から93ペタベクレルのキセノン133と2.1ペタベクレルのクリプトン85が放出されたと推計されるが、同事故においてヨウ素131、セシウム137はあまり放出されなかったとされる。事故により、被爆線量の相対的に高い風下側の地域の住民の発がん率が高くなり、相対被曝線量との有意な関係が見いだせたとする論文が発表され、発生量から放射性希ガスの発ガンへの関与が疑われる。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1469835/
もちろん同じデータを用いて、全く関連性を見いだせないとする論文も存在する。
http://aje.oxfordjournals.org/content/132/3/397.short
この論点に関してはっきりした結論が出ていない以上、放射性希ガスを無害だと決めつけるのは危険なのではないだろうか」。
更に、山敷准教授は、
「チェルノブイリ事故、スリーマイル島事故などの原発事故においては放射性物質の放出量を示す数値は、放射性希ガスを含めた総量で示されることが多い。なぜ、福島第一ではヨウ素換算倍率係数のみを持ち出すのか。(福島第一原発事故は)総量を示さないのは事故の規模を誤認させてしまうことになる」
と指摘する。
前述の通り、チェルノブイリ原発には、福島第一原発で放射性物質の拡散を防いだ格納容器が存在しなかった。また、ウランの炉心が爆発を起こし、放射性核種が広範囲に飛散した。対して、福島第一原発では、圧力容器と格納容器の爆発は免れたとされ、それによって放射性核種の飛散量が少ないとされる。しかし一方で、福島第一原発事故においては、原子炉3基がメルトダウンを起こしており、制御不能となった核燃料の量はチェルノブイリの時より多いのである。
チェルノブイリ事故を上回る可能性も
もちろん、福島第一の事故は、ある面で更に幸運だったという指摘もある。札幌市で開かれた2013年の日本海洋学会で、東京大学大気海洋研究所の植松光夫教授は、
「いろいろな推計があるが福島第一から放出された放射性物質の85%程度が太平洋に落ちたと見てよいのではないか」
と話した。
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