◇建物に潜むアスベストはどこにあるのか

どのようにアスベストから「自衛」が必要なのか。実際にアスベスト関連工事への対処法について、2010年に東京都で実施された対照的な2つの解体工事なども参考に解説する。

破れた天井から劣化した吹き付けアスベストがのぞく。もっとも飛散・発じんしやすく危険性が高い
破れた天井から劣化した吹き付けアスベストがのぞく。もっとも飛散・発じんしやすく危険性が高い

 

◆アスベスト建材利用の始まりは戦前

前回建築物の改築・解体などの工事が予定されている場合に、どのようなことをすべきかについて、最初に確認すべき事項を説明した。そのなかで、アス ベストを含有しているとみられる建材を可能なら写真撮影するようにと書いたが、いったい建物のどこにアスベストが含有されているのかわからないというかた も少なくないだろう。そこで今回は改めてどのようなアスベスト建材が建物のどこにあるか見ていこう。

アスベスト建材には、ビルや学校などで多く使われた吹き付けアスベスト、機械室の配管などに使用されるアスベスト含有保温材、工場や一般家屋の屋根・外壁・内装材に多用されたアスベスト含有成形板などがある。

具体的な話に入る前に、アスベスト建材がいつごろから使用開始され、どの時期に使用禁止となったのかについて、ごく大ざっぱに説明する。

各種文献によれば、日本におけるアスベスト産業の始まりは明治時代で近代化と時を同じくしている。当初軍需や工業利用が中心だったのが、建材として利用さ れ始めるのは20世紀に入ってからだ。当時使われていたのは「石綿盤」と呼ばれていた現在の石綿スレートで、アスベスト含有成形板に分類される。石綿ス レートは、20世紀初頭には防火材、不燃材として指定を受けるなどして利用が増えていった。とくに1923年の関東大震災で石綿スレートの耐震性が認めら れ、震災復旧材として利用が増加したという。

戦後になると、それまで軍需中心だったアスベスト製品の販路を民需に転換せざるを得なくなり、建材利用の促進に向けて業界を挙げて取り組み始める。そうし て1950年代ごろから、それまで屋根材だけだった石綿スレートの利用が外壁材や内装材にも広がっていった。アスベスト含有のけい酸カルシウム板や押出成 形板の開発もそうした流れによる。吹き付けアスベストの使用も同じころから始まった。アスベスト含有保温材は戦前から使用されていたのが建築に転用された かたちだ。主要なアスベスト建材は、戦後の高度経済成長期に安価な住宅を建設する需要の高まりとともに開発され、普及していった。

アスベスト建材の使用規制は、1975年に重量比5%以上のアスベストを含有する吹き付け作業が禁止されたことが始まりだ。ところが代替品である鉄鋼スラ グなどから製造する人造繊維、吹き付けロックウール(岩綿)は施工性が悪かったことから、これに少し混ぜるかたちでその後もアスベストの利用は続いた。規 制が5%以上の禁止だったための法の抜け穴である。

1995年にクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)を同1%以上含む製品の製造や使用が禁止された。あわせてアスベストを1%以上含む吹き付け 作業の原則禁止も定められた。これによって、基本的にアスベストを含有する吹き付け材の使用はなくなった。ただしこれにしても1%未満であれば規制対象外 のため、施工性向上などを目的に施工段階でアスベストを少し加えた可能性は捨てきれない。
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