( ※ 当連載は、「私、北朝鮮から来ました ~日本に生きる脱北女子大生~ リ・ハナ」 を再構成してアップしております。)
「私、北朝鮮から来ました」記事一覧

今年1月刊行の手記「日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩」は多くのメデイアに取り上げられた。
今年1月刊行の手記「日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩」は多くのメデイアに取り上げられた。

 

第7回 父との思い出―雨の日
◆ 病院で見る父の姿
父との思い出と言えば、病院と結びつくものが多いです。家ではほとんど何も話さない父と会話をするには、学校の先生から薬を頼まれたり、私が病気になったりという状況が必要だったからです。

小さい頃から偏頭痛を患っていた私は、鎮痛剤が手放せませんでした。また、歯の生えかわりの時期や病気のときなどには、父から言われた時間に、父の勤務する病院に足を運びました。

父は、仕事を他の先生に任せ、私を連れて必要な診療科を回りながら治療を頼んでくれます。急ぐ父から離れぬよう、私は父の白衣の裾をつかんで早足についていきます。恐る恐る診察室に入ると、父が、「うちの娘です。よろしくお願いします」と私を先生に紹介して、すぐに仕事に戻るのでした。私は、治療を受けてから父の診察室に戻り、父に経過を報告して家に帰ります。ときには、父の科の病室で安静にしてから帰るときもありますが、父はいつも私を一人で帰らせて、仕事を続けました。

病院で見る父の表情は、私にはとても穏やかなものに映りました。同僚の先生たちともよく笑いながら会話を交わしていて、患者たちにもとても優しく接するので、私は病院で、「チョル先生(父の名前)のお嬢さん」と親しみを込めて呼ばれました。私は、そんな父のことを誇りに思い、尊敬していました。私や弟にもう少し優しくしてくれればと思う気持ちもありましたが...。ともかく、外で見る父の姿は、みんなに好かれる立派な「医者先生」でした。

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