◇秘密保護法は戦争への道
「秘密保護法案からは戦争の足音が聞こえてきます。情報統制と監視体制によって国民が『見ざる・聞かざる・言わざる』の状態におかれていた、暗い時代の再来が予感されます。沖縄戦の体験者としては身震いする思いです」と憂いを深めるのは、沖縄県宜野湾市在住で79歳の知念忠二さんだ。
知念さんは沖縄戦当時、故郷の伊江島で洞窟に家族で隠れていた。潜り込んできた日本軍の敗残兵たちからスパイ視され、銃口を向けられた。危うく難を逃れたが、後に、沖縄各地で住民が日本兵にスパイ視され虐殺されていたことを知る。
背景には、当時、軍機保護法や国防保安法で軍事機密や国家機密の探知・収集・公表・外国への漏洩は、最高で死刑に処す秘密保護の法制度があり、国の隅々までスパイ防止体制・監視体制が敷かれていたことがある。
「当時、私は国民学校の生徒で、先生や親や周りの大人から『スパイに気をつけろ。壁に耳あり』と言い聞かされました。戦争はどうなっているとか口にしようものなら、スパイ・国賊と見なされる時代だったのです。軍に都合のいい大本営発表の情報ばかり知らされ、正義の戦争と信じ込まされて、私たち少年は大きくなったら軍人になって戦うんだと燃えていました」
そうした歴史を振り返りながら知念さんは語る。
「軍隊は住民を守らない。軍は軍そのものを最優先させる。そして、国民の目と耳と口をふさいで、戦争や軍隊への批判を抑える。これは戦争への道なのです。安倍政権は集団的自衛権の行使や改憲を掲げており、秘密保護法制定はその動きと直結しているように思えてなりません」
秘密保護法ができれば、市民の目も国会のチェックも及ばない、国家機密という闇が増殖を重ねる。それは主権在民の民主主義を形骸化させ、米国に従って「戦争のできる国」へと導くだろう。
日本社会がその方向に進むのか、あるいは踏みとどまるのか。沖縄からの声は、私たちに警鐘を鳴らしている。(つづく)
【吉田敏浩プロフィール】
1957年生まれ。ジャーナリスト。アジアプレス所属。ビルマ(ミャンマー)の少数民族の自治権闘争と生活・文化を取材した『森の回廊』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近年は戦争のできる国に変わるおそれのある日本の現状を取材。著書に、『密約 日米地位協定と米兵犯罪』『赤紙と徴兵』『沖縄 日本で最も戦場に近い場所』『ルポ 戦争協力拒否』『反空爆の思想』など。
<<第1回へ | 「戦争の足音」一覧 | 第3回 へ>>