◇国家機密という名の闇
安倍晋三政権が秘密保護法案を今国会で成立させようとしている。
「秘密保護法案は、米国のNSC(国家安全保障会議)をモデルにした日本版NSCを創設する、国家安全保障会議設置法案とセットです。つまり日米で軍事・外交の秘密情報の共有を進め、国家機密という名の闇の領域をつくろうとしています」
こう懸念するのは、沖縄で米軍機の騒音など基地被害をめぐる裁判に取り組む加藤裕〔ゆたか〕弁護士である。
在日米軍基地の7割が集中し、自衛隊基地の強化も進む沖縄では、絶え間ない軍事活動が県民の生活に深刻な影響を及ぼしている。
米軍優位の不平等な日米地位協定に象徴される日本政府の対米従属の外交姿勢が、大きなひずみをもたらしている。
基地と軍事活動の実態を知ろうとする県民の前には、今ですら軍事・外交情報の秘密の壁が立ちはだかるが、秘密保護法案が成立したら一体どうなるのか。
それを明らかにする前に、まず法案の概要を説明しておこう。
法案では、(1)防衛(2)外交(3)スパイ防止(4)テロ防止の四分野で、漏洩すると国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあり、特に秘匿を要する情報を、行政機関の長が「特定秘密」と指定する。
それを漏らした国家公務員や契約業者や都道府県の警察職員らに、最長で懲役10年の厳罰を科すとしている。
さらに、人を欺く・脅迫・窃取・傍受・不正アクセス行為などで「特定秘密」を取得した者にも最長で懲役10年、漏洩や取得の共謀・教唆・煽動をした者にも最長で懲役5年の厳罰が科されることになる。つまり、公務員や一部の業者だけではなく、誰もが取り締まりの対象になるのだ。
しかし、「特定秘密」の基準も、処罰の対象も曖昧で、広範囲に及び、行政の判断で恣意的に拡大解釈できる。何が秘密か、どのような行為まで処罰されるのか、国民にはわからぬまま、政府に都合の悪い情報は隠され、時の政権の判断で処罰範囲が決められるおそれが強い。
法案に「知る権利」や「取材の自由」への配慮も盛り込まれたが、秘密指定の権限は政府が握っており、何が正当な取材行為かも政府の判断次第で、お題目に過ぎない。
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