韓国ドラマを北朝鮮に運んだ商売人
北朝鮮には中国籍の華僑が外国人居住者として暮らしている。正確な数はわからないが、現在、数千から一万人程度だと思われる。北朝鮮の住民としてほぼ唯一、自由に中国と出入国することが認められている。
鎖国体制の北朝鮮にあって、個人で中国との担ぎ屋貿易ができる利点を生かして、90年代から小金を貯める人が生まれている。主に中国製の廉価な衣料や雑貨を中国に持ち込む。逆に北朝鮮からは金(ゴールド)や薬草などを中国に持ち出す。中には、違法な韓国ドラマのCDを密かに北朝鮮に搬入する者もいる。動機は金儲けであって政治的背景はないと見られる。
北朝鮮との密貿易に関わっている知り合いの華僑に電話で問い合せたところ、次のように答えた。
「2004年頃から、韓国のテレビドラマを中国で片端から録画して北朝鮮に持ち込んだ。平壌や平城(ピョンソン)の闇業者の連中によく売れて儲かった。彼らはCDにどんどん複写して闇で売っていた。そのうち、他の華僑や貿易トラックの運転手たちもCDの運び屋を始めるのが出てきて競争が激しくなった。闇業者はドラマ以外の番組や韓国の本のテキストも買ってくれるというので、何でもかんでもメモリーに入れるようになった」
韓国のKBS放送やMBC放送は、衛星波でも同じ番組を同時送出している。中国ではパラボラアンテナとチューナーさえあれば簡単に視聴できる。これを同録して、めぼしい番組を北朝鮮に持ち込むというわけだ。
この華僑は証言を続けた。
「金正日が死んだ後の昨年春に平壌に戻った時に、その闇業者を訪ねると『やばいものをメモリーに詰め込むな』と言われた。韓国で作った金正日の番組が入っていたと言うのだ。『あんな危険なものは一般には売れない。すぐ密告されて足がつく。金持ちに個別に売るしかないが、こっちも怖くて商品ならない』という。だが、ごく親しい警察の幹部や友人にはメモリーに複写してあげたと言っていた」。
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