8月に平壌で起こったとされる「芸能人集団銃殺事件」。処刑の理由は猥褻ビデオ撮影などの芸能界の「性的スキャンダル」で、金正恩氏の元恋人と噂される歌手・玄松月氏も処刑されたとの情報が世界を駆け巡った。しかし、事件の核心は性的醜聞ではなく政治、それも金正恩氏に関する録画物が原因だったという情報が北朝鮮内部から出ている。(石丸次郎)

USBメモリーで動画見ることができる「ノートテル」。この数年、北朝鮮で流行しており、当局が強く警戒している。取材協力者が知人の家で撮影したもの。撮影 2013年6月 アジアプレス
USBメモリーで動画見ることができる「ノートテル」。この数年、北朝鮮で流行しており、当局が強く警戒している。取材協力者が知人の家で撮影したもの。撮影 2013年6月 アジアプレス

 

8月20日、平壌市にある姜健軍官学校のグラウンドで、多くの人が見守る中、芸能関係者が銃殺された。韓国政府は10月8日、国会情報委員会で「銀河水(ウナス)管弦楽団関係者10余人が銃殺になったと把握している」と、この事件を事実だと言明した。

銃殺事件があったのは間違いないと思われるが、その理由については、その後詳細な情報が一向に出てこない。アジアプレスでは、事件の真相を探ろうと、北朝鮮内部の取材協力者や中国のメンバーを動員して情報収集を始めた。

凄惨だった処刑現場

9月に入り、処刑の目撃談を聞いた貿易関係者などが北朝鮮から中国に出国してきて、銃殺現場の凄惨な様子が伝わり始めた。
「射撃手が軽機関銃を連射したため、処刑になった者たちは『細切れ』になってしまったそうだ。玄松月(ヒョン・ソンウォル)も殺されたらしい」(9月中旬に中国に出てきた北朝鮮貿易商)

噂は北朝鮮国内も駆け巡った。
「主犯は金・チョルという歌手の俳優で、淫乱ビデオの撮影もしていたという。彼は銃殺になった。玄松月は殺されていないと幹部が言っている」(両江道在住の取材協力者、9月中旬)

「芸能関係者を集めて、見ている前で機関短銃で銃殺したそうだ。肉片がバラバラになってそれを見た芸能人の中には気絶した者もいたそうだ」(咸鏡北道在住の取材協力者、10月初旬)

平壌から中国遼寧省の瀋陽に出てきていた知り合いの貿易商に話を聞くと、意外な感想を口にした。彼は八月半ばに中国に出て来ていたので、銃殺事件後の北朝鮮内部の様子については知らない。

「平壌の銃殺事件の核心は淫乱ビデオではなく政治問題だと思う。しばらく前から将軍様(金正日)に関する動画が平壌でひっそりと見られるようになっていた。このビデオを見た幹部や外貨稼ぎ会社に勤める人間が保衛部に捕ったという話が、一年ほど前から耳に入っていた。それと関連があるような気がする」。
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