◇「厳罰に処す」との布告文全文入手
8月以来、北朝鮮内部では「不純録画物」取り締まりの暴風が吹き荒れている。平壌であった「芸能人集団銃殺」を皮切りに、各地で幹部級の処刑を含む 大々的な重刑処分が繰り返されている。摘発は当初は「淫乱ビデオ」取締りが名目だったが、その後、様相はすっかり変わり、韓国情報の流入阻止が処断の理由 になっている。北朝鮮内部からの伝えられた情報を報告する。また、9月に発布された布告文「不純出版宣伝物を隠れて見たり流布させる者達を厳格に処罰する ことについて」の全文訳を掲載する。(石丸次郎)
「淫乱ビデオ」取締りから始まった
「平壌から保安部(警察)の幹部たちが来て、韓国の映像物の検閲に入っているんだが、その標的は一般住民でなく(地元の)幹部たちだ。家宅捜査も始 まってる。普段、韓国の映像物を一番見ているのは幹部たち。これまでは(報復が)恐ろしいから保安員も幹部たちに手を出さなかったのに、今回はやってい る」
8月23日、北部・両江道に住む取材協力者A氏からかかってきた電話連絡の概要である。韓国のドラマや映画などの流入に対する取締りは、今に始まったことではない。これまでも度々摘発が行われてきたので、この時は、筆者は強く気に留めることもなかった。
だが、この内部からの電話報告の後すぐ、各地で連続して銃殺刑を断行するなど、「不純録画物」取締りの暴風が吹き始めた。世界の耳目を集めたのは、 韓国の朝鮮日報が8月29日に、消息筋の話として「20日に平壌で銀河水(ウナス)管弦楽団員含む芸術家10数人が『淫乱ビデオ』を撮影・販売したとして 銃殺された」と報じてからである。
この時、北朝鮮国内ではすでに、この「芸能人銃殺事件」の噂が全国に拡散していた。咸鏡北道に住む取材協力者B氏が8月30日に、次のように報告してきた。
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