全町避難が続く福島県富岡町に一時帰宅した小川篤さん(45)は「福島のために何かしなければ」と福島第一原発の収束作業に携わってきた。しかし、その労働環境は劣悪だった。小川さんは除染作業にも従事したが「除染しても意味がない、放射性物質は風にのって再び降り注ぐ」と話す。(矢野 宏・新聞うずみ火)
◆ピンはね横行、危険手当なし...日当6000円の作業員も
「東電や元請企業の健康管理のずさんさを垣間見ました」という小川さん。今年2月から再び福島第一原発に入り、原発作業員の労働環境がさらに悪くなっていることを痛感する。
「東電が安い価格で入札をかけるため、業者間で叩き合いが起こり、技術力の乏しい業者が『安かろう悪かろう』で落札するケースが増えています。しかも、業者間で二重、三重にピンはねされるため、危険手当すら支給せずに日当6000円という安い賃金で働かされている作業員も少なくありません。それゆえ、労働者は除染の仕事選び、重労働の原発作業を避ける傾向にあり、ますます現場の作業員が不足しているのです」
◆除染をしても、風にのって放射能物質が再び降り注ぐ...
いわき市内から富岡町へは車で40分ほど。途中、車窓から眺めた被災地は徐々にだが、再建に向かっているように見えた。いわき市久ノ浜地区は津波被害が甚大だったが、国道沿いには建設中の住宅が目につき、復興住宅を建てるための整地作業も進められていた。
広野町を抜け、昨年8月に警戒区域が解除された楢葉町に入ると、防護服と全面マスク姿で除染を行っている作業員を見かけた。町内の各地で行き場のない汚染土の入った黒いビニール袋が大量に積み上げられている。
小川さんは除染作業にも従事したことがある。
「家の屋根や雨どいの放射性物質を洗い落とし、庭や玄関先などの土を5センチほどはぎ取るのですが、放射性物質は風に吹かれて近くの山から次々降り注いできます。福島第一原発の事故が収束していないと、除染はやっても意味がありません。請け負ったゼネコンを喜ばせるだけです」
富岡町の海沿いの道を走ると、津波被害を受けた建物やスクラップ状態になった車がそのまま放置され、かつて集落があった場所は雑草が生い茂っていた。2階部分まで波にえぐられた民宿、隣接するホテルもコンクリート製の入り口部分が崩壊している。街灯が折れ曲がり、津波で流されてきた家屋が道路をふさいでいる。町は廃墟になっていた。