内戦下のシリアに暮らす子どもたちのために、発行を続ける小学生向け学習誌。トルコで編集し、シリア国内で印刷。戦闘で学校に行けなくなった子どものもとに、地元スタッフが配り届けている
内戦下のシリアに暮らす子どもたちのために、発行を続ける小学生向け学習誌。トルコで編集し、シリア国内で印刷。戦闘で学校に行けなくなった子どものもとに、地元スタッフが配り届けている

3年目を迎えるシリア内戦。死者は13万を越え、国民の3割近くが家を追われた。対立の構図は政府軍と反政府組織に加え、イスラム勢力やクルド組織も台頭するなど複雑化。北部ではアルカイダ系組織が、強硬なイスラム主義による支配を拡大させつつある。

1月、玉本英子はトルコ南部でシリア難民を取材するとともに、シリア国内に入り、内戦下の人びとの声を記録した。いまも激しい戦闘が続くアレッポ県北部地域からの渾身の現地報告。

◆学校へ行けない子どもたちの支えに

3年におよぶシリア内戦は、子どもたちにも大きな影響を与えている。激しい戦闘で住民が避難し、多くの小学校が閉鎖を余儀なくされた。

戦渦の国内で暮らす子どもたちの笑顔を取り戻したい、と昨年3月に発刊されたのが、小学生向け学習誌「ゼイトゥン・ゼイトゥナ(オリーブくんとオリーブちゃん)」だ。シリア北部名産のオリーブから名づけられた。月2回発行され、激しい戦闘が続くイドリブ県を中心に2000部が、スタッフたちの手などによって無料で子どもたちの家々へ配られている。

編集にあたるのは、トルコ南部ガジアンテップのシリア人避難民たちだ。編集デザインを担当するソマール・バキルさん(22)は、子どもたちに希望をもってほしい、との思いで、活動を続けている。パソコンで誌面を編集し、データはネット回線を通してシリア国内に送られる。地元のスタッフらが、発電機で電気を確保し、輪転機を回して印刷する。

誌面には、社会や算数、英語などを楽しく勉強できるよう明るいイラストが添えられていて、平和の大切さについて書かれた記事もある。
「楽しい記事を見るだけでホッとする。もっとたくさん出して」など、子どもたちからの声が配達スタッフを通じて寄せられているという。

全土での戦闘はいまも続き、停戦への見通しも立たない。教師も避難しているうえに、砲撃で破壊された学校もある。
「子どもたちは殺戮と破壊ばかりを目にしてきました。子どもの心を戦争で壊してはいけない。この学習誌からひとつでも多くの笑顔と希望が生まれてくれたら嬉しい」
ソマールさんはそう話した。
【トルコ南部・ガジアンテップ 玉本英子】

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