何やら忙しげな一画があるかと思えば、そこは小さな市場だった。
青空市場は地方に行けばどこでも目に入る光景だが、露天に並んだ野菜の奥に高層マンションが見えるのが、さすが首都北京らしい。
すでにビルに包囲されてしまったこの市場。もはや巻き返しは絶望的であるにもかかわらず再開発という時代の流れに抵抗し、白旗を上げるのを頑固に拒 んでいる滑稽な存在に思えなくもない。でもそんな思いが「安いよ!安いよ!」と、がなるような威勢の良い声で吹き飛ばされると、余所行きでない中国がまだ 残っていたことに心の底でホッとする。
買い物に来ていた男性がこっそり耳打ちしてくれた。
「安いからよく来るけど、正月などはむしろ高くなるよ。値段は勝手に決められているからね」
久々に晴れた空の下、陽光に映えた野菜は、実に美味そうである。
【宮崎紀秀】