ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん(中央正面)
ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん(中央正面)

◇ウラン採掘によって深刻な環境汚染

原子力発電所で事故が起きると多くの人が被曝してしまうことは、すでによく知られている。だが、原発の燃料となるウランを採掘する現場でも多くの人 が被曝しており、被害を受ける人は大抵は先住民族など経済的、社会的に弱い立場にある人々であることは、あまり知られていない。インドのジャドゥゴダ鉱山 や日本の人形峠での調査経験がある京都大学原子炉実験所の小出裕章さんに、ウラン採掘現場の状況を聞いた。(ラジオフォーラム)

ラジオフォーラム(以下R):小出さんはインドに行かれたことがあるとお聞きしましたが。

小出:はい。2000年に世界環境映画祭が日本で開催され、「ブッタの嘆き」という映画が大賞を受賞したのですが、それを制作したシュリプラカッシュ監督が私の原子炉実験所まで訪ねてきて、「ブッダの嘆き」で取り上げたウラン鉱山の調査に来てくれとの要請を受けたのです。

私はそれまで、国内では人形峠のウラン鉱山を調査していたので、それならば喜んでインドに行きましょうと言ってお受けしました。インドの唯一のウラン鉱山のジャドゥゴダというところに行きました。

R:ジャドゥゴダ鉱山について説明していただけますか?

小出:ジャドゥゴダ鉱山はインドの西部、カルカッタに近いジャールカンド州というところにあります。

インドではカースト制度で身分が決まってくるのですが、そのカースト制度にも入れない、いわゆるアンタッチャブル、不可触賤民と呼ばれる人たちがい ます。実はその不可触賤民にもなれない人たちというのがいます。それは、インドの先住民族の人たちです。ジャールカンド州というところは、そうした先住民 族の方々がたくさんいらっしゃる場所です。人々はとても貧しい暮らしをしていますが、自然の豊かなところです。そういう場所で、インド唯一のウラン鉱山が 掘られてしまうことになりました。

R:ウランを掘り出すにあたり、地域の汚染はどのような状態でしょうか。

小出:ウラン鉱山を掘るところはどこでも、それが米国でも、オーストラリアでも、カナダでも、もちろんインドでも、そして日本の人形峠でも猛烈な汚染が周辺で起きてしまいます。

R:だいたいどれくらいの放射線量が出ているのでしょうか。

小出:まず、毎時0.6マイクロシーベルトというのが、いわゆる管理区域にしなければいけない基準なのですけれ ども、それを超える集落もありましたし、そこまで達しなくても、汚染を受けている集落はありました。ウラン鉱山で掘り出された、ウラン混じりの残土があち こちに放置され、そして、いわゆる鉱滓と呼ばれるものが投棄されている池もあります。その池の周辺では毎時1マイクロシーベルトを遥かに超えるところもあ りました。

R:福島ではセシウムなどの名をよく聞きますけれど、そのウラン鉱山ではどのような放射性物質が出てくるのでしょうか。

小出:まずウランそのものが放射性物質であり、ウランを掘ってしまうと、ウランの「娘核種」と私たちが呼ぶ様々な放射性物質が付随して出てきます。例えば、ラドン、ビスマス、鉛などです。こうした様々な放射性物質が掘り出されて、それが環境を汚染します。

R:娘核種というのですか。分裂して子どもみたいに出ていくということでしょうか。

小出:ウランがある限り、次々とそういう放射性物質が生み出されてしまうという物理学的な法則がありまして、ウランだけではなく、こうした様々な放射性物質が環境を汚染してしまうのです。

R:ラドンとかビスマスという放射性物質も危険なのでしょうか。

小出:
昔「ゴジラ」という映画があった時に、空飛ぶ怪獣のラドンというのがいましたね。放射性物質のラドンは完全な気体で、空を飛ぶといいますか、空気中にどんどん拡散してそこら中を汚染してしまう放射性物質です。

R:吸い込んでしまう危険がありますね。

小出:そうです。呼吸によって人間が吸いこんでしまうという、特殊な放射性物質です。いわゆるウランというのは天然の放射性物質なんですけれども、天然の被曝という意味では、ラドンの寄与が一番大きいと昔から言われている放射性物質です。

R:ラドン温泉と聞くと体にいいような気がしますが、そうではないということですね。

小出:はい。ラドン温泉を喜ぶようなことは全くの無知のなせる技でして、放射性物質である限りは必ず危険なものです。

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