市場に負けた国営ナンバーワン百貨店 [3]
取材 ク・グァンホ 整理・解説 石丸次郎
石丸:第一百貨店は、建物は立派ですけれど、売ってくれない商品が多いですね。
ク:平壌で一番大きな百貨店です。平壌に住む人間にとっては、百貨店に並べてある物は陳列品に過ぎず販売しない というのは常識です。取材に行った日に(国定価格で)売っていたのは、タバコ、衛生紙、女性の髪留め、粉末洗剤、しゃもじ、子ども用の靴ぐらい。
サイダー を飲もうとしたら、それも売らないと言われました。あとは陳列しているだけか、ジャンマダンと同じ闇価格。百貨店に買い物に行く人なんてほとんどいません よ。だってジャンマダンなら値切ることもできるけれど、百貨店では販売員は決められた価格で売るしかないし、少し高いから。
石丸:商店として意味をなしていないですね。
ク:そうですよ。大きいけれど飾ってあるだけ。少ない国産品を買いに来るのはお金のない人たちです。質のよくない品を延々と並んで買うんです。
石丸:いつから物を売らずに陳列するだけになったんでしょうか?
ク:現在の第一百貨店が建てられたのは80年代ですが、当時は物を売っていましたよ。94年に一度店を閉めたん です、売るものがなくなって。その頃 は、ビールやサイダーが数本置いてある程度でした。それから2000年を過ぎてから中国製品が大量に朝鮮に入るようになって、商品が並ぶようになりまし た。
石丸:お金のある人はどこで買い物するんですか?
ク:ジャンマダンですよ。高級品は平壌市の統一(トンイル)通りの新ジャンマダンに行けば売っています。あとは外貨商店。
石丸:保安員の姿が目立ちます。
ク:貨幣交換した後に混乱があったからです(注1)。その時に第一百貨店で一日だけ国定価格で物を売ったんです。ものすごい人が押し寄せて、窓ガラスが割れる程の大混乱。群衆の下敷きになって死者が何人か出たそうです。それで、保安員を立たせて秩序を保っているわけです。