◇90年代「苦難の行軍」期から普及 「先軍のイカ」との呼び名も
(ペク・チャンリョン)
慢性的な食糧難に陥っている北朝鮮の人々は普段、どんなものを食べているのだろうか。北朝鮮内部で秘密裏に撮影された写真を元に、庶民の生活事情に迫るシリーズ。今回紹介するのは、庶民が好む「人造肉(インジョコギ)」。油を搾った後の大豆の残りカスの固めたものだ。
幅5センチ、厚さ3センチ程度の帯状で、ぐるぐると巻かれた写真の姿で全国の公設市場や路上で売られている。また、片手ほどの大きさに切り取った人造肉の中にご飯を詰め、辛く味付けされた「人造肉ご飯」も、屋台の食べ物として人気を集めている。
90年代、北朝鮮では、「苦難の行軍」と呼ばれる時代があった。金日成主席(当時)の死去に伴い国家システムが崩壊、未曾有の経済難と社会混乱が訪 れ、200万~300万人といわれる餓死者が出たのだった。人造肉が普及し始めたのはその頃。当時、多くの人々にタンパク質が圧倒的に不足する中、いわば 「時代の要求」を受けての登場だった。
実は人造肉にはもうひとつの呼び名がある。「先軍のイカ」というのがそれだ。人造肉が、故金正日総書記が「苦難の行軍」を打開するために打ち出した、「先軍政治」というスローガンと共に全国に広まったことを皮肉った呼び方だ。
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