多くの車は厳しい取り締まりを事前に知っているようで、たいした荷物も積んでいない。ジャラブロスから来た男性、アブドッララハマンさん(35)は、
「向こうでは毎日、どこかで銃撃戦が起き、人が殺されている」
と声を震わせる。他の人たちに聞いても、これまでにないひどい状況だ、と口々に言う。
現在、町には「神は偉大なり」と染め抜かれたISISの黒い旗があちこちに掲げられ、「まるでイスラム自治区になってしまった」と言う人もいた。その町を奪おうと、自由シリア軍が攻撃を仕掛ける。
女性民兵のマハ・イブラヒムさん(31)も、ジャラブロスの出身だった。彼女は半年前、人民防衛隊に志願した。「イスラム過激派から住民を守るため」に銃を持つことを決めたという。
マハさんの家族は今もジャラブロスに残る。ISISは地区の住民たちに、独自に公布した「イスラム法」をしいた。「違反者」には容赦ない処罰が課されるという。
女性はベールで顔まで隠さなければならず、一人で外に出ることもできない。母親は電話で「街角にはイスラム兵士たちがたむろし、住民たちを監視しているので、逃げることもできず、みんな従うしかない」と伝えたという。
シリア北部の多くの町では政府軍と反政府組織に加え、反政府派組織間の勢力争いが激しさを増している。住民は各派の勢力争いの戦闘のはざまで、逃げ 場さえ失い、わずかな食料で命をつないでいくしかない。内戦が複雑化の一途をたどるなか、和平への道のりはまだ見えてこない。
【シリア北西部・アレッポ県 アイン・アル・アラブ 玉本英子】
<<< 途絶える物資:第35回 │ 第37回:救急病院の現場で >>>
連載記事一覧
【1】 【2】 【3】【4】 【5】 【6】【7】 【8】 【9】【10】
【11】【12】【13】【14】【15】【16】【17】【18】【19】【20】
【21】【22】【23】【24】【25】【26】【27】【28】【29】【30】
【31】【32】【33】【34】【35】【36】【37】【38】【39】【40】
【41】【42】【43】【44】【45】【46】