冀の住んでいた山東省の実家の部屋 撮影日は2013年9月17日
冀の住んでいた山東省の実家の部屋 撮影日は2013年9月17日

 

●法治が尊重されない中国

冀の事件は、中国の近年のこうした傾向を改めて示す象徴的なものとなった。中国の犯罪心理学の権威、中国人民公安大学の武伯欣教授は、個人による過 激な事件が相次ぐ背景について、「(中国に)人治に頼り、法治を尊重しない状況が存在している」と認める。さらに公務員の中に、官僚主義、無作為、無責 任、責任逃れなどの体質があり、法律や規則はあってもそれを執行する人がいないと指摘する。

「もし人が挫折や不満や不当な扱いに直面した時、法制度を通じて権利が守られるならば、そのような(過激な犯罪)手段に走ることはないだろう」

中国にも法律や警察はある。しかし、上から下、中央から地方に行けば行く程、金や権力を持つ者や、その周辺に集まる者たちが法や制度を蔑ろにし、私利私欲や保身のために横暴となる。

中国政府は、社会の安定を至上命題としており、個人が起こした過激犯罪を厳罰に処している。しかし最下層の庶民の生活と権利を守る法と制度を機能させることができなければ、同様の事件は今後も起こり続けるだろう。
<執筆者プロフィール>

宮崎紀秀

1970年生まれ。元日本テレビ記者。警視庁クラブ、調査報道班などを経て中国総局長。中国滞在は約6年。北京在住。

※アイ・アジアは調査報道のための非営利組織です。
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