寒くなるにしたがって電力需要は高くなる。原子力発電所が1基も動かなかった今冬、北海道電力は16時から21時の時間帯に「2010年度比で6%以上」 という節電目標を掲げているが、それ以外の電力各社は節電目標を設けていないという。原子力発電ゼロ、北電以外は節電目標も掲げず、冬の電力供給に問題は 生じていない。京都大学原子炉実験所・助教の小出祐章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)
◇火力発電所を止めてでも原発を稼動したい
ラジオフォーラム(以下R):寒い冬や暑い夏、原発が止まっていると電気が足りなくなるのではと、つい思ってしまう人が結構います。
小出:そのようですね。
R:原発を止めると、私たちのこういう豊かな暮らしが出来なくなるのではと恐怖を覚えてしまう。でも、実際はどうなのでしょう。
小出:私は電気をたくさん使うということが豊かだと実は思いません。しかし、電気をたくさん使うことが豊かだと思っている人たちにとっても、原子力というのは全く不要です。
R:それはどうしてですか。
小出:今、即刻全ての原子力発電所を停止したとしても、日本の電力供給には何の問題も生じないからです。それは 私が言っているのではなくて、日本には、原子力発電所がどれだけ、火力発電所はどれだけ、水力発電所はどれだけ、というデータがすでに公表されています。 私自身はその公表されているデータを調べているだけですけれども、日本で使う電力は、火力発電所と水力発電所をきちっと動かすことが出来るなら、いついか なる時も十分に間に合います。
R:3.11の前ですけど、日本の電力の3分の1は原子力発電ですというコマーシャルが流されていて、私たちはいつの間にか、原子力発電がなくなると暮らしそのものが成り立たなくなってしまうという錯覚を持っていました。
小出:まんまと皆さん騙されてしまったのですね。2012年の夏に大飯の原子力発電所というのを動かさなければ 停電になるぞ、と国と関西電力が脅かして、大飯の原子力発電所3号機と4号機の2基を動かしました。合計出力270万キロワットですけれども、その陰で関 西電力は、火力発電所を300万キロワット分停止させたのです。
日本には火力発電所が十分にあって、年間の稼働率でいえば、5割にも満たないのです。つまり、半分以上の火力発電所を止めておかなければならないほど、火力発電所が余っているのです。
R:なぜ、火力発電所をあえて止めて、或いは減らしてまで、原子力発電所を使おうとするのでしょう。
小出:原子力発電所というのは一度動かし始めてしまうと、出力調整もできませんし、ひたすら動かすしかないとい う、そういう機械なのです。ですから、動かしたら、とにかく1年間なら1年間、動かしておきたいので、どうしても稼働率、私たちは設備利用率と呼んでいま すが、それが高くなってしまうのです。火力発電の方は需要に合わせて止めたり動かしたりできる大変便利なもので、夜間は止めてしまって動かさない、という ことをずっとやってきたのです。
R:「火力発電所は燃料となる石油が高いので結局割高になってしまう、原子力発電の方がコストが圧倒的に安い」。これは現在ではほとんど嘘だったということが明らかになっていますね。
小出:そうですね。すっかり明らかになってしまっていて、数年前に立命館大学の大島堅一さんという方が、電力会社の経営データ、有価証券報告書という実際のデータを使って、それぞれの発電の方法の電力単価を計算してみたら、原子力が1番高かったという結果がすでに出ています。
R:円安で石油が高くなり、電気料金もたびたび値上げされているせいで、なんとなく火力だけに頼っているとコストが高いんじゃないかと思わされてしまっていた。
小出:そうです。もともと原子力なんかに手を染めなければ、私たちはもっとずっと安い電気代で済んだはずなのです。ところが、愚かな電力会社の経営陣のために、これまでも高い電気代を払わされてきたわけです。
R:それではどうすればいいのですか。
小出:原子力をやめてしまえば、今持っている発電所が不良債権になってしまうわけで、その部分の穴埋めをしない といけないという問題は、短期的にはあると思います。けれども、もともと高い原子力発電なんかやめた方がいいのであって、これから火力なり水力なりに転換 していけば、基本的には安くなるはずです。
R:そうしたことをマスメディアはもっと声を大にして伝えるべきなのですが、実際にはマスメディアによる原発問題への言及は小さくなってしまっています。
小出:日本の政府、電力会社、原子力産業、マスコミなどなど、全部がグルになって、とにかく原子力がいいんだと いう宣伝をこれまで流してきたのです。そして福島第一原子力発電所の事故が起きているにもかかわらず、原子力をやるという方針をますます強めようとしてい ます。その時に、またマスコミもそれに巻き込まれてしまっている。原子力ムラという組織が、全く無傷のまま今でも生き延びてしまっていると私には見えま す。
R:日本の電力は火力と水力で十分に間に合っているということですね。
小出:そうです。政府の統計データがそれを証明しています。
R:なおかつ、火力と水力発電の方が十分にコストが安い。
小出:そうです。それも電力会社の経営データが示しています。
R:これから原子力発電所を止めたり廃炉にしていくにあたって、大変なお金がかかりますし、今後も作り続け、動かし続けて、また福島の事故のようなことが起こった場合のことを考えれば、経済コストの面から言っても、火力・水力で十分だということですね。
小出:福島の事故について、きちっとした賠償・補償をしようと思えば、日本の国家が倒産してしまうほどの被害が すでに出ているわけですし、これから廃炉ということをやろうとすれば、大変なお金がかかるというのは本当のことなのです。それはもう逃げることができませ んので、私たちがそれと向き合うしかないのです。これ以上、原子力をやってしまうのならば、その大変さがどんどん膨らんでしまうわけです。まずは原子力か ら足を洗うというのがいいと思います。