アマル救急病院の新生児室で唯一機能する保育器には、生まれたばかりの未熟児の双子が入れられていた。だが温度調節ができず、酸素ボンベも底をつきはじめていた。新生児の一割が死亡するとハマッド・メシィ医師(写真)は話す。【シリア北西部・アレッポ県コバニ(アラブ名アイン・アル・アラブ) 1月撮影:玉本英子】
アマル救急病院の新生児室で唯一機能する保育器には、生まれたばかりの未熟児の双子が入れられていた。だが温度調節ができず、酸素ボンベも底をつきはじめていた。新生児の一割が死亡するとハマッド・メシィ医師(写真)は話す。【シリア北西部・アレッポ県コバニ(アラブ名アイン・アル・アラブ) 1月撮影:玉本英子】

 

◆戦闘で病院にたどりつけず...

長期化する内戦は、医療現場にも深刻な影響を与えている。

これまでシリアでは、妊婦は定期健診などを受け、出産するのが普通だった。しかし内戦により、多くの妊婦は外に出ることもできず、産気づいてから、はじめて病院へ向かう。

アイン・アル・アラブのアマル救急病院の産婦人科では、大きなお腹を抱えた妊婦ら数人が、待合室の長いすに腰を下ろしていた。家族に支えられながら、粗い呼吸で陣痛に耐えている妊婦もいる。

アレッポ県北西部では、医師たちが国外などへ避難したため、多くの産婦人科はすでに閉鎖されるか、機能しなくなった。そのため、周辺地域に暮らす妊婦たちは、陣痛が始まるとアマル救急病院を目指す。ここでは1週間に60人の新生児が誕生する。

だが、医療設備が十分でないため、その一割は死産にいたる。出産時に命を落とす妊婦も少なくない。戦闘で妊婦が病院にたどりつけないまま、正常分娩ができず、死に至るケースも多いという。

診察室に置かれた超音波機器は修理できずに壊れたままで、新生児室にある保育器も温度調節ができなくなっていた。消毒液や水も足りないため、分娩室の衛生状態は悪い。国内外からの医療支援や医薬品は、まったく届かない。

「妊婦たちは戦闘で、精神的、肉体的に大きなストレスを受けている。シリアでは銃弾や砲弾による犠牲者だけではなく、多くの新生児や妊婦の命も奪われていることも知ってほしい」
ハマッド・メシィ医師(45)は訴える。

破壊と殺戮が広がる戦火のさなかに生まれてきた小さな命。その無事を願わずにはいられなかった。

【シリア北西部・アレッポ県 コバニ(アイン・アル・アラブ) 玉本英子】

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