◆前線に赴き、交渉

シリア北西部のアイン・アル・アラブ(クルド名コバニ)で10年ぶりに再会したイスメット・ハサンさん(48)。電気技師として働くかたわら、周辺地域を支配するイスラム武装組織との交渉に尽力している。

地元の有力部族の出身であり、地域の取りまとめ役としても活動してきた。イスメットさんは危険をおかしながら、自ら車を運転し、前線へと向かう。車 のガソリンは物資が不足するなか、あちこちからかき集めたものだ。各武装組織のあいだに入り、クルド人組織とISISの民兵の捕虜交換や戦闘停止などを呼 びかけている。

シリア北西部、アイン・アル・アラブで反政府組織のあいだに入り、停戦交渉などを続けるイスメット・ハサンさん(中央)。ここが今、反政府組織どうしの戦闘で、村や町の奪い合いになっている。(アレッポ県 アイン・アル・アラブ(クルド名コバニ) 1月撮影)
シリア北西部、アイン・アル・アラブで反政府組織のあいだに入り、停戦交渉などを続けるイスメット・ハサンさん(中央)。ここが今、反政府組織どうしの戦闘で、村や町の奪い合いになっている。(アレッポ県 アイン・アル・アラブ(クルド名コバニ) 1月撮影)

 

イスメットさんは地元の人びとから信頼されてきたため、住民保護など、武装組織との交渉にも奔走してきた。 ところが、ISISには外国人義勇兵が多数入ってくるようになったため、イスメットさんについて知らない地域司令官からは、交渉を拒否するようになった。

「最初、『お前はトルコのスパイか何かだろう。殺してやる』とイスラム民兵から頭に銃を突きつけられた」とイスメットさんは言う。しかし、粘り強く交渉を続けるなか、ISIS側も応じるようになった。

しかし、いったん大きな戦闘が始まり、死傷者が出るとすべてが決裂する。信頼関係も、最初からやり直しだ。イスメットさんは時間を少し置いてから、再び前線へと向かう。

「シリア人どうしの殺し合いになってしまった今、国内から「やめろ」という声を出さないでどうする。自分は最後までここに残るつもりだ」
イスメットさんの決意は固い。

町のすぐ先には、炸裂した砲弾から立ち上る黒煙がいくつも空に伸びていた。

(シリア北西部 アレッポ県 アイン・アル・アラブ 玉本英子)

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