◆じつは美容整形大国~鼻の整形手術を行う男性も激増
核問題で揺れるイスラム教国家イランが、世界有数の美容整形大国であることはあまり知られていない。イランでは10年ほど前から、女性の美容整形、とくに鼻の整形手術が激増し、イルナー通信によれば、手術件数は年間8万5千件と、どの欧米諸国よりも多いという。
高い技術と実績により、近隣諸国からも患者が訪れており、今年2月にはイラン中部の都市シーラーズで、第1回中東鼻整形手術国際セミナーが開催され、世界20カ国から300名の整形外科医が参加した。
イラン人女性にとって、大きな鼻はコンプレックスの元凶らしい。彼女たちの理想の鼻は、低くて、鼻筋がすっと細く通り、先端がつんと尖った鼻であり、多くが整形と言われるハリウッドスターやイランの女優たちのこうした小鼻が憧れの的だ。
とはいえ、鼻整形の費用は日本円で10万円以上と、公務員月収の2倍近い。決して安くはない手術費用を親に出してもらう女性がほとんどだという。こ のため、鼻の整形を行う女性=「家がお金持ち」+「おしゃれに敏感」という図式が成り立ち、手術後に鼻に貼る白いテープがステータスシンボルにさえなって いる。
「もし3人組の似たようなルックスの女の子をナンパして、そのうちの一人が鼻にテープを付けていたら、絶対にその子を選ぶよ」
筆者の友人のイラン人(26歳)はこう断言する。鼻テープは女性にとってのステータスシンボルであるだけでなく、今や男性の目には一種のセックスア ピールにすらなっているようだ。首都テヘランの繁華街では、鼻に術後のテープを貼り付けて闊歩する若い女性を至るところで目にするが、そのうちの何割か は、伊達メガネならぬ、伊達テープだという。
こうした風潮を政府系メディアが取り上げるとき、きまって社会学者の口からは、若者の間に蔓延する過剰な外見重視や自己への信頼感の欠如が原因だなどという、もっともらしい言葉が並ぶ。
だが、イラン人女性の間での美容整形に対する熱狂は、厳しい宗教的戒律への反動とも言われている。イスラム法に則るイランの服装規定では、女性は公 共の場で、髪、身体のライン、そして顔以外の素肌を覆い隠さなければならず、自らの美をアピールできる肉体的部分はおのずと顔面しか残されていないから だ。
なるほど、と筆者もイラン人女性の社会的背景に同情を覚えていた。ところが近年、このイスラム法反動説を根底から覆す現象が現れた。それは、鼻の整形手術を行う男性が激増していることだ。
政府系メフル通信が示した統計では、イランではこの5年で男性の美容整形が10倍増え、鼻の整形手術を受ける5人に2人が男性だという。彼らが模範 とするのは、すでに整形済みと言われるプロサッカー選手や、海外で活躍する人気のイラン人男性歌手の鼻だ。こうなると残念ながら、政府お抱えの社会学者の 説に軍配を上げたくなってくる。
【大村一朗】