原子力発電所の危険性が多くの人に認識され、いくつかの代替エネルギーに光が当てられている。その一つに、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコン バインドサイクル(複合発電)と言われる高効率な発電方式の導入が進められている。このコンバインドサイクルとはいかなるものなのか、京都大学原子炉実験 所・助教の小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)

ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん
ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん

◇熱効率が進化した発電方法

ラジオフォーラム(以下R):全国各地で火力発電所の高効率化が急速に進んでいるようです。そもそも従来の火力発電とコンバインドサイクル方式は、大きく違うものなのですか。

小出:まず、従来の火力発電も原子力発電も、いわゆる蒸気機関と私たちが呼んできた機械なのです。 約200年前に産業革命が起こり、 当時ジェームス・ワットという人たちがしきりにいろいろな機械を発明しようとしていました。その結果、水を沸騰させて蒸気を吹き出すことができれば、 その蒸気の力で機械が動くということを見つけたのでした。

それ以降、沢山の機械が使われるようになってきたわけですが、 火力発電所も原子力発電所も、その蒸気の力でタービンという羽根車を回して発電するという、まあ言ってみれば、大変古めかしい機械だったのです。

特にそのうちでも原子力発電は、圧倒的に効率の悪い蒸気機関でして、未だに熱効率と私たちが呼んでいるものが33%しかないのです。 つまり、生み出した熱のうち33%しか利用できず、 残りの67%、つまり倍の熱は捨てるしかないというようなバカげた発電方法なのです。

R:海に流して海水温を上げているという話でしたね。

小出:そうです。 ですから、使える電気の量に比べれば2倍もの熱で海を温めて 環境を破壊してきたというものが原子力発電だったのです。
同じ蒸気機関である火力発電所の場合には、より高温の蒸気を生み出せるようになりまして、 熱効率が40%、50%というようなところまで既に来ています。その上に火力発電の場合には、もともと燃焼した時にガスが出てくるわけですけれども、 そのガスの力でガスタービンを回し、さらに、余った熱の蒸気でタービンを回すという、いわゆるコンバインド(複合)という形の発電方法が急速に確立してき ました。

R:ムダが少ないってことですね。

小出:そうです。 熱効率は既に60%を超えるというような高効率の発電所ができるようになっています。

R:原子力発電の2倍も効率的ということですね。

小出:そうですね。たとえば原子力発電所では100万キロワットの電気を起こすために、 200万キロワット分の熱を海に捨ててきたのですけれども、 もし、仮に原子力発電所の2倍の効率、つまり66%で火力発電所が運転できるのだとすれば、100万キロワットの電気を得るために海に捨てるのは50万キ ロワットで済んでしまう。つまり、海を温める割合が4分の1で済むのです。
発生する熱そのものも、100万キロワットの原子力発電所では 300万キロワット分熱を出さなければいけないわけですが、 熱効率66%という火力発電、コンバインドサイクルが利用できるならば、 発生する熱は150万キロワット、つまりもう半分で済んでしまうということになるのです。

湯浅:なるほど。

小出:もちろんそうすべきなのです。 原子力発電なんていう時代遅れのバカげた環境破壊装置は 即刻止めるべきだと私は思います。

R:火力と原子力を比べた中でも、このコンバインドサイクル方式が発展・普及していけばそれで十分じゃないかということになるということですね。

小出:もちろんです。 もう皆さんご存知と思いますが、2011年3月に福島第一原子力発電所が事故を起こして以降、ほとんどの原子力発電所は停止してきているのです。 現在も(14年4月現在)日本では原子力発電所がひとつも動いていないわけですけれども、 日本の電力供給に何の支障もありませんので、 即刻原子力発電を全部止めても実は困らないのです。それでも電力会社が原子力発電にしがみ付こうとしているのは、 既につくってしまった原子力発電所をすぐに不良債権にしてしまうと、 電力会社の経営が成り立たないという経営問題があるからなのです。

R:東日本大震災以降、このコンバインドサイクル方式が東京電力など6社でおよそ417万キロワットが整備されています。そして、2030年代までに10基分以上が整備される予定になっているようです。

小出:今後のことを思うのであれば、こんなにバカげた原子力発電をつくるよりは、 コンバインドサイクルの火力発電をつくった方がもちろん経営上も好ましいわけです。今後はどんどんそちらの方向に動くと私は思います。

R:火力発電というと、よくいわれるのは二酸化炭素(CO2)の排出ですね。 CO2を回収する技術の開発も進んでいるのですか。

小出:そうです。高効率になるにしたがって、 まず燃やさなければいけない燃料の量がどんどん減ってきていますし、 それにつれてCO2の発生量も減っているのです。 その上、CO2を回収する技術も進んでいますので、 二酸化炭素問題が重要だと言う人にとっても、こういう発電方式の開発はもちろん好ましいことになると思います。

R:つまり、一時的な政権の意向などといったものを超えて、技術的にも効率的にも、金銭的にも環境的にも、原子力よりこちらの方が明らかに優れているということですね。

小出:そう思います。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

 

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