今年3月に出版された、「九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響」(発行:ころから)。著者の加藤直樹さん(46)は、関東大震災の朝鮮人虐殺について、当時の記録を元に、虐殺 が起きた90年前の同じ日、同じ時刻に起きた出来事を、随時ブログ上にアップしていった。
(聞き手:アジアプレスネットワーク編集部)
◆90年前にいったい何が起きたのか~ブログを通して歴史の事実を「タイムリー」に伝える
加藤:
大久保でおこなわれた差別デモでは、公道で「朝鮮人を皆殺しにしろ」と叫ぶ人たちが登場した。こういう事態になったのは、深い根があるということではないか。歴史的な経緯も含めて、そういう視点を提起できないかと思い始めました。
それが90年前に起きた関東大震災の朝鮮人虐殺だったわけです。いま誰も関東大震災のことを思い出さないのはまずい。レイシズム(民族・人種差別)について、多くの人びとが考えているいま、90年前にこの東京で起きたことを伝えられないだろうか、と思ったわけです。
最初に思いついたのが、ブログでした。普通のブログではなくて、90年前の関東大震災の時に起きたこと、それをその日、その時間にあわせて同時刻的にアップしていくということです。
たとえば1923年の9月3日の何時かに誰かが殺されたという記録があれば、それを90年後のいま、同じ日、同じ時間にアップするんです。リアルに 感じてもらえるように、その現場の現在の写真も載せていきました。虐殺がひどかったのは地震が起きた9月1日からの1週間です。だから最初の数日は、どう しても1日に何本もの記事をアップすることになります。
大久保や大阪・鶴橋での反レイシズムの運動はツイッターで広がっていったんですね。私たちのブログも、同じように多くの人がツイッターで拡散してくれました。おかげで、関心のある人たちは、アップされていくブログを同時進行で読んでくれました。
ブログは8月31日に始めて、終わったのが10月8日。最終的に5万ビュー以上のアクセスがありました。反響は大きかったです。いま、起きているこ とが、90年前に起きたことと、地続きだということを伝えたかった。ブログを読んでくれた人たちの多くが、「殺せ」と叫ぶレイシストのデモを見たことのあ る人たちだったから、「朝鮮人虐殺は単に昔の話じゃない」とリアルに理解してくれたわけなんです。
ブログ記事を書く上での資料は、地元の図書館、大学図書館、国会図書館の3箇所でほとんど集めることができました。本の検索は今、ネットでもできま すから、家のパソコンで検索して、その本が置いてある図書館へ行きました。関東大震災の朝鮮人虐殺について書かれた本は結構あります。しかしそのほとんど が古く、絶版になっているので、一般の人の目には、なかなか触れることができません。
例えば1963年に出版された『現代史資料6 関東大震災と朝鮮人』(みすず書房)。当時の新聞記事や、証言、公文書などを収録した本です。琴秉洞(クム・ピョンドン)さん(故人)という研究者がまとめたもので、この問題を考えるときの基礎資料です。
すでに亡くなっていたり、高齢になっているごく少数の研究者たちが、生涯をかけて研究して、誰でも検証できるように多くの史料をまとめておいてくれたものです。新聞の関連報道をまとめた史料集とか、当時の知識人が語ったことを収集した本もありました。
何百ページもあって値段も1万円を超えるものが多く、はっきりいって売れる本ではない。国会図書館でしか現物を見られない本もあります。こうした史 料をまとめて、誰でも確かめることができるように残してくれた研究者にも、採算を度外視してそれを出版した版元にも、本当に頭が下がります。
かれらには、たぶん予感があったと思うんです。いずれ、この虐殺もなかったことにされるんじゃないか、と。だから、実際に資料を見せて、「ほら見て、当時の新聞にこう書いてあるでしょう、公文書にもこうあるでしょう」と明確に言えるように執念で残したのだと思います。
例えば戒厳軍司令部の秘密文書などもあります。どこそこで朝鮮人を何人殺したとか、ちゃんと記録があるわけですね。その情報を本や史料にして、国会 図書館に行けば誰でも見られるようにしてくれたのだと思います。そのおかげで、僕も事実に触れることができました。これらの記録をもとにブログで書いたも のを再度校正して、加筆したものが今回の著書です。(つづく)
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