◆安倍首相、靖国神社を参拝、正午のニュースでは...
NHKの収入の96%は受信料。視聴者がスポンサーの公共放送だ。だから、国や特定の会社や団体に左右されず、公平で中立な放送を行わねばならな い。HPには「視聴者にできるかぎり幅広い視点から情報を提供することを目的とする」とある。NHKの新放送ガイドラインには「報道機関として不偏不党の 立場を守り、番組編集の自由を確保し、何人からも干渉されない。ニュースや番組が外からの圧力や働きかけによって左右されてはならない」とも記されてい る。
しかし、実際はどうか。
昨年12月26日、安倍首相が靖国神社を参拝した。NHKは正午のニュースのトップで伝えた。事実関係の概略に続いて記者に囲まれる安倍首相が映る。独演会のような場面が「政界の反応」に切り替わったのは8分を過ぎた頃だった。
コメントした政治家は7人。新藤義孝総務相、小野寺五典防衛相、石破茂幹事長、尾辻秀久元厚労相、西田昌司副幹事長、萩生田光一文部政務官。そして民主党の大畠章宏幹事長である。
7人中6人が自民党議員。このうち新藤大臣は昨秋の例大祭に参拝、総理参拝からまもない今年元日も参拝を重ねた人物だ。尾辻元大臣は「みんなで靖国 神社に参拝する国会議員の会」会長。西田氏は、超党派の保守系議員で構成される「創生日本」事務局長。萩生田氏は「日本の前途と歴史教育を考える議員の 会」会長である。同会の前身は改変事件に関わった「~若手議員の会」だ。いうなれば、安倍首相と同じ歴史観を持つ人たちばかりが画面に登場した。これは、 一例に過ぎない。
元NHKの番組プロデューサーで、武蔵大教授(メディア社会学)の永田浩三さんは最近、元「慰安婦」の被害女性を説明するニュースの字幕スーパーに 「『慰安婦』と名乗る女性」とあるのを見て愕然とさせられた。あたかも信用性に欠けるかのような表現。なお、改変事件から13年、NHKは「慰安婦」問題 をテーマにした番組を一本も作っていないという。
◆問題不問のツケは...
今回の人事について永田さんはこう見ている。「安倍さんは改変事件の際に新聞などで批判されました。だからこんどは、組織として言うことを聞くよう に作り変えておくということではないでしょうか。これから集団的自衛権、憲法改正などやりたいことがあり、障害になるものは全部潰しておきたいと。本当に 恐ろしいことです」
籾井会長の就任会見が問題化した直後、国会で「籾井発言」について問われた安倍首相は「政府としてコメントする立場にない」と言及を避けた。問題発 言を「不問」に付し、「辞任の必要なし」と言っているに等しい。永田さんは「NHK側が借りを作ることにならないか」と憂慮する。
安倍首相は一方で、こんなふうに答弁した。「新会長をはじめNHK職員の皆さんは、いかなる政治的な圧力にも屈することなく中立、公平な放送を続けてほしい」。13年前と重ね合わせ、永田さんは複雑な思いで聞いたという。
ある現役職員は「これでいいと思っている者は誰もいない」と苦悩をにじませる。良心ある職員を励まし、いかに手を携えることができるのか。「スポンサー」である私たちも、当事者としてその覚悟が問われている。
【矢野宏、栗原佳子 新聞うずみ火】
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