◆ 戦闘から逃れるも先行き見えず~避難女性の言葉重く
シリア北西部のアイン・アル・アラブは、周辺地域から逃れてきた避難民たちが押し寄せ、人口は内戦前の2倍、8万人になった。国内避難民のほとんどは、支援も受けられないなか、生活費を工面しているが、限界まで追い詰められている。
町の中心地そばにある、中学校の跡地には、避難民10家族ほどが身を寄せていた。ひとつの教室にひと家族が暮らす。女性や子ども、老人がほとんどだ。男たちはイラクへ働きに行ったという。
避難民の女性たちに声をかけてみたが、なかなか口を開こうとはしない。
「何もなくて恥ずかしいですが」
若い女性が招きいれてくれた。かつて教室だった場所に大きなカーペットを敷き、その片隅には色あせた布団が積んであった。石油ストーブを置いていたが、割れた窓に貼り付けたダンボールのすきまからは、冷たい風が流れ込んでいた。
幼い5人の子を持つハジル・カワスさん(23)は2か月前に東隣のラッカ県から逃げてきた。夫は仕事を探してイラクへ渡った。
シリア全土に反アサド政権のうねりが広がった2年前、ラッカ市でも反政府運動が起きた。町は1年前、イスラム武装組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国)によって制圧された。アサド像が倒されるのを見て、当初、人びとは町の解放を心から喜んだという。
しかし、その後、イスラム国家実現を目指すISISは、地元住民たちに独自の厳しいイスラム法を強制しはじめた。街なかでの公開銃殺も行われるよう になった。さらに町の支配をめぐって、ISISに対し他の勢力が反撃し、戦闘は拡大の一途をたどった。脱出する人びとが相次ぎ、ハジルさんの家族も町から 逃れた。
「多くの知り合いが戦闘に巻き込まれて、次々に命を落としていった。どこの勢力を支持しているわけではなかったのに」
ハジルさんの瞳から涙が、こぼれおちた。
国内避難民のほとんどは、難民を受け入れる周辺国を目指す。国外に親戚のいる人はお金を借りて脱出することができるが、頼る人がいない場合は、少し でも治安のましな別の町へ逃れるしかない。他の町と比べて、まだ大規模な空爆や、武装組織間の全面衝突がおよんでいないアイン・アル・アラブには、逃れて くる避難民があとをたたない。
イラクで宗派抗争が最も激しかった2005~2007年頃、シリアは数十万人のイラク人避難民を受け入れてきた。それからわずか数年後、シリアが内戦に陥った。自分たちが国内や国外に避難民となって、さまようことになるなど、誰も予想はしていなかった。
「夫の仕送りも、いつ途絶えるか分らない。他に助けてくれる人もいない。どうすればいいのでしょうか」
か細い声で、ハジルさんは言った。
【シリア北西部・アレッポ県 アイン・アル・アラブ 玉本英子】
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