◇内モンゴル自治区現地報告
スマートフォンやハイテク製品の製造に欠かせない現代産業の要であるレアアース。セリウムやネオジムといった希少価値の高い鉱物で、希土類とも呼ばれる。このレアアース、実は中国が世界の生産量の9割近くを占めている。
今年3月26日、WTO(世界貿易機関)は「中国のレアアース輸出規制は協定違反」とする判定を下した。この問題は、中国がレアアースの輸出に対し税を課 したり、数量制限を設けたりしていることは不当だとして、日本、アメリカ、EUが共同で審理を求めていたもの。中国は、輸出規制を「国内の環境や資源保護 の為」と主張していたが、その主張が否定された形だ。中国は判定を不服として上訴したが、実際にレアアースの採掘現場を見ると、中国の主張が虚しく聞こえ るほど深刻な環境汚染が存在していた。その実態を内モンゴル自治区の取材から報告する。(アイアジア/宮崎紀秀)
●濃紺の水たたえるレアアース湖
2013年5月、バイユンオボ鉱床を抱える内モンゴル自治区の包頭(バオトウ)を訪れた。ここは中国の主要なレアアース生産拠点。空港から車で市内 に入ると、レアアース大通り(稀土大街)やレアアース公園(稀土公園)なるものまで、至る所にレアアースの文字がある。一言で言えば、栄えている。この資 源とともに発展してきた都市であることが一目で分かる。
包頭の郊外にある通称「レアアース湖」(稀土湖)。広さ10平方キロメートル、東京ドーム20個分に匹敵する大きさだ。市の中心部から車で1時間ほどの所にあるその湖に向かった。
湖がある辺りに到着し、車を降りる。乾燥した草の生えた荒れ地が続く。荒れ地が緩やかな上りとなり、その先が砂丘のような堤防になっている。その砂 の堤防を一気に駆け上がると、突然、目の前に広大で平らな土地が現れた。そこは干上がった湖底のようにも見え、黒っぽい土の表面は薄い層のようになってい る。その土の層を指でつまむとサクっとはがれ、中には細かい結晶のようなものがキラキラ光る。
湖底が干上がってできた湖岸だった。草木が全くない。まるで火星のような荒涼とした地表だった。強い日差しと風にさらされながら、さらに15分ほど 歩き続けるとやっと湖にたどり着く。濃紺の水をたたえた湖。ドブ河のような悪臭。油のような匂いもする。若干の刺激臭も感じる。
この湖は、包頭のレアアース関連工場が、およそ半世紀にわたり廃水や廃棄物を垂れ流してきたところだ。垂れ流された「ゴミ」は水中に沈んでいるだけではない。乾いた物質は風が吹けば細かい粒子となって舞っていく。つまり、周辺に飛び散っているのだ。
レアアースは地中で放射性元素トリウムと結合して存在していることが多い。レアアースを選鉱する際には強い酸などを使う。そのためレアアースを取り 出して残った廃棄物には、放射性物質や強い酸が含まれ、通常はきちんとした処理や厳重な管理が必要だ。しかし、そうした処置が行われてこなかったことは、 このレアアース湖を見れば一目瞭然だ。重く沈んだ濃紺と深緑が混じった湖面は鏡のようで、遠くに見えるレアアース工場を映していた。