◆ 教科書選定過程が、突然変更に
沖縄県八重山地区(石垣市・竹富町・与那国町)で中学公民教科書が一本化されていない問題は、保守的な教科書を拒否する竹富町教育委 員会(慶田盛安三教育長)が、地区離脱の方針を示し、新たな局面を迎えている。「教育再生」を掲げる安倍政権は、「違法状態」などとして「是正」を要求す るなど圧力をかけ続けてきたが、竹富町側は徹底抗戦の構えだ。(新聞うずみ火 栗原佳子)
まずは経緯を振り返りたい。問題の発端は3年前。2011年8月23日、竹富町と石垣市、与那国町からなる「八重山採択地区協議会」が2012年度からの中学公民教科書に「育鵬社」版を答申したのがはじまりだった。
育鵬社はフジサンケイグループ傘下の扶桑社が100%出資した子会社。同社版の教科書は「新しい歴史教科書をつくる会」から分裂した「教科書改善の 会(屋山太郎代表世話人)」や「日本教育再生機構(八木秀次理事長)」が手掛けた。八木理事長は安倍総理のブレーンで総理の私的諮問機関「教育再生実行会 議」委員の一人である。
教科書の内容は特徴的だ。憲法について、現憲法より大日本帝国憲法に重点を置いて説明、公民教育の重要な柱である「基本的人権の尊重」についても《行き過ぎた平等意識はかえって社会を混乱させ、個性を奪ってしまう結果になることもあります》と書く。
領土問題では《東シナ海上の尖閣諸島については、中国がその領有を主張しています。しかしこれらの領土は歴史的にも国際法上も日本の固有の領土で す》と明言。《戦後の日本の平和は自衛隊の存在とともにアメリカ軍の抑止力に負うところも大きいといえます》とする一方で、沖縄の基地問題については欄外 に小さく《在日米軍基地の75%が沖縄に集中しています》とあるだけだ。
いまの教科書採択制度は広域性をとっており、都道府県教委が設定した採択地区で科目ごと選んでいる。市町村が二つ以上ある場合は採択地区協議会を設 置、そこで選定した教科書を各市町村教委に答申するという仕組みだ。八重山採択地区協議会では、このときの採択で、選定過程が従来のものとガラリと変わっ た。協議会会長で石垣市の教育長、玉津博克氏が突然、選定ルールを変更したからだ。
例えば、役員会も経ずに「調査員」役の教師を勝手に任命。調査員が各社の教科書を精査・順位付けして協議会に推薦していた従来の方法を、順位をつけずに複数推薦するやり方に変えてしまった。
さらには、調査員の推薦がない教科書も全て、選定の対象とした。その結果、玉津氏が任命した調査員たちをもってしても推薦されず、公民全7社中最低 の評価だった育鵬社版が選ばれてしまった。玉津氏は、この年の前年に初当選した保守系の中山義隆市長(現在二期目)の肝いりで、現役高校長の任期を残して 教育長に転身した。昨年秋には、「平和教育は思考停止」などと答弁し、石垣市議会初の不信任決議を突きつけられたこともある人物である。(つづく)
【栗原佳子 新聞うずみ火】
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