沖縄県竹富町の子供たちが使う東京書籍「新しい社会 公民」。全国で6割のシェアを持つ(新聞うずみ火)
沖縄県竹富町の子供たちが使う東京書籍「新しい社会 公民」。全国で6割のシェアを持つ(新聞うずみ火)

◆竹富町、全国からの寄付金で東京書籍版を購入

「育鵬社」版という協議会答申を受けた石垣市、竹富町、与那国町の3市町教委の判断は分かれた。首長がともに保守系の石垣市と与那国町は答申通り育鵬社版を採択。一方で竹富町教委は育鵬社版を否決、調査員の評価が高い東京書籍版を選んだ。

ちなみに、沖縄の米軍基地問題について「東京書籍」版は、住宅地のど真ん中にある普天間基地の写真とともに「沖縄と基地」という大型のコラムを掲載している。

教科書採択をめぐる法律には地方教育行政法と教科書無償措置法がある。地方教育行政法では、採択の権限は各自治体にあると定めているが、無償措置法では採択地区内は同じ教科書を使わなければいけないと規定している。

八重山採択地区協議会は沖縄県教委の指導助言のもと役員会で再協議したが、決裂。このため9月8日、八重山地区の全教育委員13人による公開の全員協議会が開かれた。県教委も文科省と調整したうえでオブザーバーとして立ち会った。

8時間の協議の末、多数決による採決が行われ、東京書籍版が圧勝した。育鵬社版は「逆転不採択」となったのだ。

ところが、すぐ玉津氏、与那国町教育長の崎原用能氏は協議の無効を訴える文書を文科省に送付。9月13日には玉津氏が東京へ直訴に飛ぶ。自民党の教科書議連(日本の前途と歴史教育を考える議員の会)と文部科学部会の合同会議に招聘され、「正当性」を主張したのだ。

文部科学部会の会長は下村博文・現文科相。会議の司会は、その後、文科省の政務官になる義家弘介参院議員だった。玉津氏は9・8全員協議会の席上、義家氏の「指南」を受けていることも明らかにしている。

こうした動きは当時の民主党政権にも「圧力」として及んだという。中川正春文科相は、育鵬社版を選んだ石垣市、与那国町を無償とする一方で、竹富町 に対しては「東京書籍版を使うなら無償措置法の対象外」という方針を示す。ただ同時に、「町側が独自で教科書を買い上げ、生徒に無償で配るまでは法令で禁 じられていない」とも答弁し、含みも残した。

竹富町では、有志の住民たちが全国からの寄付金で東京書籍版を購入、町教委がその寄付を受けるかたちで生徒に粛々と配布してきた。大小16の島々からなる竹富町の人口は4000人。この新学期も、新しい中学3年生46人が東京書籍版を手にしている。(つづく)
【栗原佳子 新聞うずみ火】

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