仏教徒が人口の90パーセントを占めるミャンマー(ビルマ)において、ムスリム(イスラム教徒)は5パーセントと少数派だ。一部には、イスラームを脅威に感じ、敵視してきた仏教徒もいる。
政治が民政に移管した2012年頃から、仏教徒とムスリムの流血を伴う武力衝突があいついでいる。なかでも、仏教徒として反イスラームの急先鋒に立つ僧侶が、ウィラトゥ師(47)だ。
ミャンマー中部の都市マンダレーにある、師の僧院を訪れると、入り口には大きな写真ポスターが何枚も貼られていた。いずれもムスリムによって首を切 られるなどして殺された僧侶たちの写真だ。ウィラット師は力強い声で、ムスリムの店での買い物を控えなさい、などと僧侶たちに説いていた。
3月から4月は仏教徒が男の子たちを出家させる、得度の時期だ。ウィラトゥ師の僧院にも幼い僧侶たちがやってきた。修行のなかで、子どもたちの心に反イスラームの意識が醸成されることになるかもしれないと思うと複雑な心境だ。
軍政という重石がとれ、ようやく社会に自由な空気が広がり始めたミャンマーだが、民族や宗教対立、貧富の格差など、社会はさまざまな課題に直面している。国民和解や助け合いの心を広める標(しるべ)となりえるか。いまのミャンマーで宗教者が果たせる役割は大きいはずだ。
【ヤンゴン・宇田有三】