ミャンマー(ビルマ)民主化の闘士ウィンティン氏が4月21日未明、ヤンゴンで死去した。84歳だった。
1989年から延べ19年間にわたり、政治囚として刑務所に収監された。厳しい取調べや拷問を受け、隔離された独房では、詩や文章で、自由への思いを綴り続けた。
約半世紀にわたって続いた軍政時代、アウンサンスーチー氏のアドバイザー役としても活躍した。
民主化運動に人生を捧げた闘士であり、また気骨のジャーナリストでもあった。
外国メディアはあいついで死去を報じ、民主化への功績を伝えた。
国外からも支援を受ける機会があったウィンティン氏だが、支援金のほぼすべてを政治囚やその家族を支える基金に寄付していた。
必要以上のものは持たないという信条で、生涯独身を貫き、知人の家のわきにある小屋に身を寄せる質素な生活を最後まで続けた。
軍政下、押し殺すような空気が街を包んでいたヤンゴンで、私はウィンティン氏と会った。
彼には何人もの私服警官の尾行がついてまわった。
「いつも私の後についてくるんですよ」
と言ってみせた笑顔が記憶に残る。
つねに身につけていた青い服はミャンマーの囚人服を表し、政治囚の最後の一人が解放されるまでと、その服を脱ごうとはしなかった。
ミャンマーでは、故人の最後のお別れのために、遺体と直接対面して送り出すのが習わしである。日中の気温が40度近くまで上がった4月23日、ウィンティン氏を慕う数万の市民が葬儀場を訪れた。
棺に横たわった老闘士は、青い服で旅立った。
【ヤンゴン 宇田有三】
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