◇指導者の反逆は超法規の政治大犯罪
北朝鮮に独特固有で、極めて深刻かつ大規模なのは、もうひとつの政治犯の問題である。法の定めによらず逮捕・拘禁処刑される人が大量に生み出され続 けているのだ。この超法規の拘禁施設が、「管理所」、いわゆる政治犯収容所なのである。管轄するのは、一般警察ではなく国家安全保衛部(秘密警察)だ。
この「管理所」について、国連調査委員会の報告書は「現在も8万~12万人が収容され、過去55年間に数十万人が死亡した」と推定している。膨大な 数の人が令状も裁判もなく闇の中で裁かれ拘禁され、その後どうなったかまったくわからないままである。「管理所」に入れられるのは、金日成―金正日―金正 恩と世襲されてきた「唯一絶対の指導者」に反逆した、忠誠を尽くさなかったとみなされたためである。
北朝鮮では金日成の思想を絶対化し、それに基づく金正日による指導に絶対服従しなければならないという内容の「掟」がある。それが1974年に明文 化された「党の唯一思想体系確立のための十大原則」だ。これが憲法や法律、労働党規約を超越する、北朝鮮社会における最高規範となっている。
「管理所」に送られることは「革命化」と呼ばれる。90年代までは、暮らしに対する不満を口にしたり、指導者を揶揄したりしても「言葉反動」(マル パンドン)として逮捕されることがあったと脱北者は共通して証言する。党や軍の幹部たちが、指導者に対する忠誠心が足りないことを批判されて「革命化」に 行かされることは、今も珍しくない。
法の定めがないということは、極めて恣意的な利用、悪用が横行するということを意味する。日本に住む脱北者K氏は次のように言う
「ライバル関係にある人間を追い落とすために『指導者に対する忠誠が足りない』と告発することは茶飯事だ。また保衛部の連中が、在日朝鮮人の帰国者 が日本から持ち帰った財産を狙って、「言葉反動」行為で逮捕して一家全員収容所に送り、財産を没収するという事件が70-80年代によくあった」
罪刑が法で定められている政治犯罪は、国家と民族への反逆を問うもので他国にも見られるものだ。北朝鮮に特異なのは、唯一絶対の指導者への忠誠を強 要する装置として、超法規の「掟」を作ったことだ。そして、「掟」破りを闇に葬るためのシステムが、身の毛もよだつような「管理所」送り=革命化なのであ る。