● なぜ豚を捨てるのか
養豚農家は川から離れた山の方向に多いと聞き、緩やかに上る農道を進んだ。農道の脇にはオレンジ色の実をつけた木が並んでいる。宜昌市はみかんの産地とし ても知られる。その道端で一人の男性が煙草を吹かし一服していた。声をかけると、偶然にも養豚農家だった。自宅に案内してもらうと、陽気で気さくな妻が迎 えてくれ、更に豚舎を案内してくれた。夫婦2人でおよそ80頭の豚を飼っているという。豚が病気などで死んだら川に捨てることがあるのかと訪ねると、「昔 は皆、豚を捨てていたけど、今では政府の管理が厳しいから」という答えが返ってきた。ここでは、豚が死んでしまうと自分たちでみかん畑などに埋めていると いう。
中国では、豚が病気などで死んだ場合、焼却又は埋却処理するよう農家に義務づけている。農家はその処理の費用として一頭当たり80元(約1360円)の補助金を受けることができる。しかしこの農家の妻は、「今年は何頭か申請したけど、くれるかどうか分かりません」と話す。
豚が育てば一頭1500元(約2万5500円)くらいで売れるという。その豚が一頭でも死んでしまえば農家にとっては大きな損失となる。そればかり か、成長すれば100キロを超える体重の豚の死骸を処理するのは、埋める場所や、労力、焼却するにしろガソリンなどの費用を考えれば決して楽ではない。
「国がお金を出して焼却や埋める場所を作ってくれればいいと思う」
「(埋めるのでなく)焼却してもいいのですが、それにはガソリンがかなり必要です。80元の補助金でガソリンを買ったら何も残らないです」
農家にとって補助金は、いつ得られるのかさえ分からず、手間のわりには額も少ない、というのが本音だろう。この夫妻の話から想像できるのは、豚の死骸を川や土手に投棄してしまえば、処理にかかるはずの労力やコストは節約できるということだ。
しかし、問題は投棄だけではなかった。取材を進めると更に深刻な事態が浮かび上がってきた。
(つづく)
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