◆「気が回らなかった」と釈明する名古屋市担当者
2013年12月中旬に名古屋市の地下鉄・六番町駅で起きたアスベスト飛散事故は、地下鉄駅という閉鎖空間における、「超」高濃度の 事故だった。行政は迅速に対応したと発表したが、実際にはさまざまな問題が生じていた。新聞やテレビが伝えない飛散事故の実態を改めて検証する。(井部正 之)
とくに「立ち入り制限」の遅れと不十分さをめぐる不手際は、駅利用者のアスベスト曝露に直結しており重要である。
機械室前の「立ち入り制限」は駅利用者のアスベスト曝露防止が目的だ。
だが、すでに述べたように、機械室前からエレベーターまでのわずか5メートル程度の範囲でしかなく、アスベストが空気とともに移動することを考えればまったく効果は期待できない。ちょっと考えれば誰でもわかることだ。
安全を考えて立ち入りを制限するのであれば、駅を閉鎖し、構内への立ち入りを禁止すべきではなかったか。それに、異常な測定値を確認した13日午前10時にすぐ実施すれば、曝露した人数も大幅に減らすことができたはずだ。
工事を委託した名古屋市交通局営繕課課長の松井誠司氏は「より発生源から遠ざかってほしいということで立ち入り制限をした。このままの濃度が続くな ら駅を閉鎖してということも話題にはなりました。ですが、漏えい事故対応の経験がなく、アスベストの専門知識もない。正直、判断できなかった。そこまで気 が回らなかった」と釈明する。
制限範囲を機械室前からエレベーター前までとした根拠も特になかった。
不思議なのは大気汚染防止法(大防法)に基づいて住民のアスベスト曝露を防ぐために、工事の監視・指導を担う市環境局からも立ち入り制限について指導がなかったことだ。
同市大気環境対策課課長の小松隆雄氏によれば、「港保健所が立ち入りした13日午前10時半ごろ、工事を止めて機械室付近やエレベーターのあたりの 立ち入りを規制したほうがいいんじゃないかと話した」というが、ただの助言で指示・指導ではない。また制限範囲も相変わらずエレベーター前までだ。
小松氏は「工事を中止したので新たな飛散がないと判断した」と、それ以上の対策が不要との考えを示す。だが、その結果、駅利用者の曝露が増えた可能性は否定できない。