◆メディア各社が軒並み誤報
ほとんどが大気汚染防止法あるいはWHOの基準と照らして71倍のアスベスト濃度だったとの内容だ。基準の71倍もの濃度なのだから大変だ、というわけだ。
だが、この報道は軒並み誤報なのだ。
現場の空気1リットルあたり710本のアスベスト(クロシドライト)が飛散していたのは事実である。問題は濃度基準を1リットルあたり10本としたにある。
まず中日や読売が報じた「大気汚染防止法で定める排出基準の71倍」との件だが、実際には同法にはアスベスト除去工事における排出基準は存在しない。また大気中のアスベスト濃度基準も定められていない。
ただし大気汚染防止法にはアスベスト製品を製造する工場における敷地境界基準(敷地境界で空気1リットルあたり10本)があり、これを除去工事の基準と勝手に解釈してしまった。
名古屋市の発表資料でも、「法によるアスベスト除去工事の濃度基準はありません」と注意書きで示されており、この報道は完全に誤りだ。
共同、産経、西日本は「WHOの安全基準」を1リットルあたり10本と報じた。WHOが1986年に公表した「環境保健クライテリア」を「安全基準」と解釈したものだが、これも間違っている。
なぜなら、この環境保健クライテリアには1リットルあたり10本という「安全基準」など存在しないのだ。
環境省の発表によれば、2012年度における住宅地の大気中アスベスト濃度の平均は1リットルあたり0.13本でしかない。最大値でもわずか同0.8本である。
名古屋・六番町駅での飛散事故は住宅地の平均濃度と比較すると、なんと5461倍である。最大値との比較でも887倍に達する。
基準の71倍などという生やさしい濃度ではない。このアスベスト飛散事故は通常の5000倍以上、住宅地の最大値と比べても900倍近くというとんでもない事故なのだ。
「超」高濃度との意味がおわかりいただけただろうか。
~つづく~
【井部正之】
| (2)へ>>
※初出「名古屋地下鉄駅構内でアスベストが高濃度飛散 明かされぬ曝露実態と行政の不手際」『ダイヤモンド・オンライン』2014年1月6日掲載に加筆修正